外伝3 勇者が49歳で社会福祉士に転職して、再び世界を○○する。

犬飼ココア

第1話 天下無双の布団ダンスとミラクルの日

 かつて「天下無双」と謳われた勇者アレンは、社会福祉士として第二の人生を送る中、最近のストレスからくる疲労に悩まされていた。そんな彼を心配するのは、養子であり地域包括支援ギルドの仲間でもあるエリーナ。彼女はふと思いつき、アレンに提案する。


「アレン、今晩は布団を持ち寄って、ギルドのホールで布団ダンスパーティーを開くのはどう?」


「布団…でダンス?」アレンは驚きながらも笑顔を見せる。「どういうことだ?」


「ただのパーティーじゃないの。布団を持ってきて、思いっきりジャンプして、寝転んで、踊って。これは疲れた体を癒す最高のリラクゼーションよ。あと、みんなで笑い合えば心も元気になるでしょ?」


 その日の夕方、地域包括支援ギルドのホールには、夜の静けさを破るように賑やかな笑い声が響いていた。エリーナの発案で「布団ダンスパーティー」を開催することになった。ホールには続々と住民が集まり、彼らの仲間であるゲンバとマリーも布団を持参してやってきた。ホールの中央には、元勇者であり今は社会福祉士として働くアレンが立っている。49歳にしてなお、その存在感は群を抜いており、「天下無双」と称されたその面影をわずかに感じさせていた。


「さあみんな、踊るぞ!」とアレンが声を上げる。手に持つのは剣ではなく、ふかふかの布団だ。彼は音楽に合わせて布団を振り回し、布団の上で飛び跳ねる独特なステップを披露する。かつては魔王を倒すために剣を振るった彼だが、今は布団を使って人々の心を癒していた。


 ホールの隅では、ゲンバとマリーもそれぞれ自慢の布団を持参していた。ゲンバは山で拾ってきたという分厚い羽毛布団を広げ、満面の笑みを浮かべて「これで天下無双のダンスを見せてやる!」と宣言。一方、マリーは母から譲り受けたという花柄の布団を丁寧に敷き、「この布団はね、幸せの歴史が詰まってるのよ」と誇らしげに語る。その言葉に触発されたのか、ゲンバは急に布団の上で大きくジャンプを始め、周りの住民たちを歓声の渦に巻き込んだ。


エリーナは周囲の笑い声に包まれながら、アレンと手を取り合い、リズムに合わせて舞い始める。その光景は、まるで父娘が新しい形の絆を育む瞬間のようだった。


その傍ら、ゲンバとマリーも独特の布団ダンスを披露。ゲンバは大柄な体に似合わぬ軽やかな動きで観客を驚かせ、マリーは笑顔を浮かべながら優雅な布団ステップを踏む。


すると、ミラクルがフワフワの布団の上で気持ちよさそうに丸くなっているのが目に留まった。「みんな見て!ミラクルが天下無双のリラックスを見せてるよ!」とエリーナが声を上げると、会場が笑いに包まれた。


 その夜、住民たちは踊り疲れたあと、布団に寝転がって語り合った。アレンは静かに空を見上げながら思った。「こうしたささやかな瞬間こそが、真に人を支えるものなのだな」と。


ミラクルは布団の真ん中で気持ちよく寝息を立てていた。その小さな姿は、まるでギルド全体の平和と幸福を象徴しているかのようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

外伝3 勇者が49歳で社会福祉士に転職して、再び世界を○○する。 犬飼ココア @inukaicocoa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ