【怪談実話】短編怪談『帰れない生徒』

有野優樹

電気のついている教室

都内で高校教師をやっている父親から聞いた体験談。


約二十年前のとある冬の日のこと。

暗くなるのが早いので、十七時には部活動が終了し生徒たちが続々と帰宅する。下駄箱でたむろしている生徒や、片付けをダラダラやっている生徒たちに

「早く帰れよー、閉じ込めるからなー」

と催促して言ってまわっていた。


生徒たちを全員帰らせないことには、自分の帰宅時間も遅くなってしまうため、できる限り早く全員を帰らせたい。

まずは三階へ行き、戸締りをしながら教室を全て見て周る。一人、二人、生徒が残っている事はあるが、注意をすればすぐに帰るので問題ない。

二階もすべて見終わり一階に行くと、とある空き教室の電気がついていた。

遅くまで何をしているんだと思いながら教室に近づいて行くと、数名の女子生徒たちの声が聞こえてきた。

説教の準備をしながら教室の扉に手をかけ、声を出そうとした途端、数名の騒がしい女子生徒の声が止まった。

ガラガラっと扉を開ける。

空き教室なので机や椅子はなく、閑散とした風景。

あんなにも騒がしい声が聞いたはずなのに、聞き間違いとは思えないほど、はっきりと聞こえたのだ。

隠れる場所もない。注意を促そうにも注意をする相手が居ないので、電気を消して扉を閉める。

職員室に戻り最後の業務を終え、帰る前に念の為もう一度教室を見てまわった。


-あの、空き教室の電気がついている。


先程と同じように、数人の騒がしい声もする。

どこかに隠れていたのだろうか。

とにかく、そこに居るであろう生徒達を全員帰らせないことには学校を閉められないので、注意をするために扉を開けに向かう。

教室に近づくにつれ、だんだんと声が大きくなっていく。

扉を開けようと手をかけたとき、扉が開かなかった。当たり前だ。自分が閉めたのだから。ではなぜ電気がついてるのか。

職員室に鍵を取りに戻り、電気のついている空き教室を開けに向かう。


‥。


開けた途端、ピタリと止む数人の声。

どうなっているんだ?と思っていた後ろから

「先生、ここはいいですよ」

と声をかけられた。

昔からここに勤めている先生だった。

「蛍光灯、とっちゃいましょ。補修するのに使っていたんですが、多分使わないほうが良さそうなので。いいですよ、あとはやっておきますから」

話の展開が急すぎて質問をすることができなかった。


次の日の見回り。電気はついていなかったがやはり、あの教室から数人の女子生徒の声が聞こえてくる。念のため確認をしに扉を開けると、昨日と同様に話し声はピタリと止んだが、ムワッとした異臭が漂ってきた。

鼻の奥をつく。

かなり強烈な匂い。

教室を見回すと、ベランダに出る窓が開いてることに気づいた。

開いている窓の下、黒い靴を履いた足が二足。

誰か倒れている。

すぐに駆け寄るとそこには、おそらく浮浪者であろう男性が横たわっていた。

素人目にもわかるくらいの状況。


後のことは警察に任せた。

それ以来、あの女子生徒達の声は聞こえなくなったが、聞こえていた謎は解けないままである。


(※お話にする際、校舎の階数は改変しました)

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【怪談実話】短編怪談『帰れない生徒』 有野優樹 @arino_itikoro

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