夢の配信者(短編)KAC20254
真坂/shinsaka
夢の配信者
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
毎晩、同じ夢が繰り返される。
薄暗い知らない街を歩き、遠くで誰かが笑う。
角を曲がると、男が立っていて、私をじっと見つめる。最初はただの奇妙な夢だと思っていた。
でも、9回目ともなると、毎回同じ場所で男の目が光る理由が気になって仕方ない。
昨夜もそうだった。夢の中で、私は街角に立っていた。
風が冷たく、ビルの隙間から不気味なざわめきが漏れる。
男が現れ、無言で私を見つめる。
唇がゆっくり裂け、笑顔のはずなのに、目が冷たく光り、瞬き一つしなかった。ぞくりとした。
目が覚めた。疲れ果てた頭で思う――記憶にない男の人……。
翌朝、スマホに通知が届いた。
「あなたの夢を、みんなで楽しみませんか?」
ふざけた広告だろうと思いながら、興味を惹かれタップした。
画面が切り替わり、背筋が凍った。
「あなたの夢はすでに10000人に配信されています。
「SNSで共有してさらに多くの視聴者と楽しんでください!」
何? 私が許可した覚えはない。スマホが手から滑り落ち、床に鈍い音を立てた。
数カ月前、「DREAM-SHARE」というサービスが話題だった。
AIが夢を映像化する技術は珍しくなかった。
でも、この企業は一線を越えた。「夢は公共の財産」と謳い、リアルタイム配信を始めたのだ。
優れた夢には投げ銭が集まり、見る側も稼げる。寝ているだけで金になるなんて、笑いものだと思っていた。あの時までは。
私が気づいた時には、私の夢は「コンテンツ」だった。
スマホを開くと、視聴者のコメントが並んでいた。
「不気味で最高!」「あの男、もっと見たい!」と興奮している。
ある日、通知が来た。
「おめでとうございます!あなたの夢が今週のランキング3位に!」投げ銭の額を見て、目が眩んだ。
現実の仕事なんて馬鹿らしくなる。
眠るだけで、私はスターになれるのだから。
だが、ある夜、奇妙なことに気づいた。
「……この夢、前と違う」
街の建物がやけに鮮やかだ。空が毒々しい赤に染まる。
男の目が、鋭すぎる。
夢の中でさえ、私は違和感に震えた。これは私の夢じゃない。
目覚めた後、視聴者の感想を見た。
「色彩が最高!」「次はもっとスリリングに!」
AIが私の夢を"調整"しているのだと気づいた時、胃が締め付けられた。
その日から、眠気が私を襲い始めた。
昼間、本を読んでいると、突然瞼が重くなり、意識が落ちる。
目を開けると、あの夢の中だ。薄暗い街角に立たされ、男が私を見つめる。
私は眠るつもりなどなかった。強制的に引きずり込まれているのだ。
目覚めても、時計は数分しか進んでいないのに、夢の中では何時間も彷徨った感覚が残る。
ある悪夢で全てが変わった。
夢の中、私は自宅にいた。いや、見た目は私の部屋だ。
でも、時計の針が逆に回っている。壁の絵が歪んで笑っているように見える。
窓の外には、建物がない。リビングに足を踏み入れると、男が立っていた。
「……誰?」
男は無言でこちらを見据え、唇が裂けた。
冷たい目が光り、私は飛び起きた。汗が背中を濡らしていた。
スマホを見ると、過去最高の視聴者数。
「怖い、ホラー映画みたい!」
「男の笑顔が頭から離れない!」
――これは、私の夢じゃない。
私は、ただの映像素材だ。
「配信を止めたい」とアプリにメッセージを送った。
即座に返信が来た。
「あなたはすでに我々に全てを預けました」
頭が混乱した。預けた? いつ?
すると、画面に最初の通知が再表示された。
「あなたの夢を、みんなで楽しみませんか?」その下に、私がタップした記録。
かすかに記憶が蘇る——興味本位で触れたあの瞬間。
同意ボタンなんて押していない。だが、アプリの次の言葉が胸を刺した。
「おめでとうございます、あなたは選ばれました」
震える指でアプリを削除しようとした。
設定を開き、「DREAM-SHARE」を探す。
削除ボタンを押した瞬間、画面が暗転し、赤い文字が浮かんだ。
「削除は許可されていません」スマホが熱くなり、手から滑り落ちた。
その日から、夢は完全に変質した。
知らない廃墟、血のような夕焼け、見知らぬ人間たち。
私は自分の夢の中を彷徨った。夢の時間が異常に長くなり、一晩が数日に感じられる。
目覚めても疲労が抜けず、現実の記憶が薄れる。
夢の中で彷徨い続け、現実が遠ざかる感覚に呑まれていく。
ある夜、夢の中で別の影が近づいてきた。
「俺も配信されてる。一緒にここから逃げ出す方法を探さないか?」
その声は低く響き、顔が一瞬ブレた。背景の廃墟が歪み、耳鳴りが鋭く突き刺さる。
私は何か言おうとしたが、世界が横に傾き、視界が暗転した。
「エラーが発生しました。強制終了します」
赤い文字が浮かび、滲むように広がった。意識が途切れた。
目が覚めると、部屋が一瞬傾いた気がした。
頭がぐらつき、目の前が揺れる。
手が震えて止まらない。足元の床が柔らかく沈む感覚が消えない。
スマホが鳴り、通知が光った。
「次回の夢にご期待ください。主役は、あなたではありません」
夢の配信者(短編)KAC20254 真坂/shinsaka @shinsaka
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