野林緑里

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 その夢の内容ははっきりと覚えているわけじゃない。ただ夢から目を覚ますとまた同じような夢をみたような気がするだけだ。


 その感覚に襲われるのは俺の知る限りでは今回で9回目。もしかしたら、もっとたくさん同じ夢を繰り返し見てきたのかもしれない。なぜなら夢をみたからといって内容をわざわざメモに書くようなことをしないからだ。ゆえに感覚だけで9回目と言っているにすぎない。


 同じ夢と思えるのはその夢には決まってトリが出てくるからだ。そのトリが何というトリなのかはわからない。同じトリなのかまったく異なるトリなのかもわからないがとにかく俺の夢にトリが出てくるのだ。


 トリはただ空を高く飛んでいる時もあれば、俺に近づいてなにかを話すこともある。


 群れを作ったかと思えば、一匹でたたずんでいる時がある。


 時として人の姿へ変わり、時として別の獣に変化する。


 ときにはキャンパスに描かれたイラスト。


 だれかが作ったぬいぐるみ。


 さまざまなものへと変化する。


 いったいいつから見ているのだろうか。


 このトリはなぜ俺の夢に現れるのか。


 目を覚ますたびに考える。


「これで9回目だね」


 また夢をみた。


 今度のトリの夢は人間の言葉を話す。


 人間の言葉で9回目だと告げてきたのだ。


 ああ


 そうか。


 だからその夢が9回目なのだと思ったんだ。


 トリが「9回目」だというからだ。


 あれ?


 なぜ9回目?


 なぜトリがでる?


 俺は首を傾げた。


 まあ深い意味はないんだろうなあ。


 なぜなら結局はただの夢なのだからな。


 特に意味はない。



「意味はあるよ!」


 あれ?


 まだ夢をみているのか?


 俺は耳を引っ張ってみる。


 いたっ!


 痛い。


 今度は夢ではない。


 俺のすぐ目の前にはトリがいる。


 トリが人の言葉を話しているのだ。


 俺はだれかいないのかと周りをみる。


 あいにくこの部屋にいるのは俺だけだ。


 だれの気配もない。


 ならばいったいだれが俺に話しかけてきたというのだろうか。


「意味はあるよ! だって9回目だもん!」


「うわっ! トリがしゃべった!」


「いまごろ気づいたのかい。僕はしゃべるトリさ。9回目なんだぞ。寝ている場合じゃないぞ」


 トリは羽を広げながらいう。


「何が?」


「だから9回目のカクヨムコン。終わるんだよ。君は。ちゃんと参加したかい?」


 その言葉にハッとする。


「いや、すみません。今回は参加できませんでした」



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野林緑里 @gswolf0718

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