夢で会えたら
太刀山いめ
邯鄲《かんたん》の夢
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
私は長年不眠に悩んでいた。それで幾度となく枕をかえた。私は通販で
一回の睡眠で何度も目が覚めるのだ。せめて疲れは取りたいと思ったから選んだ。
もう就寝時間だ…
枕に頭を預ける。
すると早速うとうとし始めた。
眠れる時に寝ておきたい…私は睡魔に身を任せる事にした。
夢で私は「彼女」に包まれていた。
今は膝枕をしてもらっている。そして耳かきをしてくれようとしていた。
長い彼女の髪が私の顔にかかる。こそばゆい。だけど悪くない。
「くすくす」
彼女が微笑む。
ああ、幸せだなぁ…
パチリと目が覚めた。夢は覚えていた。「彼女」の夢。そうだ。あの頃は苦しかったが幸せだったでは無いか…
時計を見やると三十分しか経過していなかった。だが夢見のお陰かはたまた木枕のお陰か…少し身体が軽かった。
(まだ寝たりない)
私はまた目を閉じる。睡眠を取る為に。
また「彼女」が出て来た。
可愛いワンピースを来ている。長い黒髪を風に靡かせて。
今度は花見だ。
花見と言っても豪勢では無い。缶ビール一本と焼き鳥盛り合わせのパック。
二人で缶ビールを回し飲みする。焼き鳥は
多めに彼女に渡す。それを美味しそうに彼女は串から頬張る。
「来年も花見したいね」
「もちろん」
私は答えた。
目が覚める。また覚えている。満開の桜並木を二人で歩いていた。貧乏で満足に酒もツマミも用意できなかったが、彼女は喜んでくれた…とても嬉しかった。
また三十分弱しか経っていない。
睡眠薬も飲んでいる。また目を閉じる。淡い期待を抱きながら…
私は台所に立っていた。手には猫缶を持っていた。
「にゃ~ん」
私の足下には「猫」がいた。名前は「ねこ」。彼女が名付けた。道行く人から一番呼ばれただろうと野良猫だったこの子に名付けた。
「ほらほらねこ。パパの邪魔はだめよ」
彼女がねこを抱きかかえる。ねこも慣れたもので暴れはしない。
「ほらパパ。ご飯上げて」
「ああ」
私はプルトップの蓋を開けて猫缶の「半分」を器にあける。
「はい、ねこ。ご飯だよ」
トン。彼女の腕から床に降りる。そして私の顔を見てから猫缶を食べる。
「ごめんなぁ。半分は明日の分だ」
「ごめんねねこ」
彼女はねこを優しく撫でた。
また目が覚めた。これで何度目だろう…そうだ。9回目だ。「彼女」の夢を見たのは。
不思議だ。別れてからもう何年も経つ。なのに今は直ぐ側に彼女が居たように温もりも…残り香さえ感じる。
この夢は私の未練。彼女には未練は無いはずだ。私と添い遂げても貧乏が待っていただけだ。
彼女の優しさも、美しさも…最早私のものでは無い。これは未練なのだ…
私は己を掻き抱く。もう抱き締めてくれる人等居ない。寂しい独り身。
己が情けなくなる。私は布団を整えてまた眠りに付いた。
寝付かれない。布団が纏わりついて煩わしい。
彼女の残り香が鼻に残っている。肌には温もりも…
涙が出そうになる。
ふと顔にこそばゆい感覚がする。
すぐに気づく。髪の毛だ。髪の毛が顔をくすぐっている…
だが夢ではない。私には意識がある。すると纏わりついていた布団に重みが加わる。身体が動かせなくなる…
そして私の「首」にそっと両手が添えられた。
すると徐々に力が込められる。込める度に顔に髪がバサバサとかかる。
「くっ…」
呼気が漏れる。首を絞められている。この部屋には私一人しか居ない。
だが彼女の香りがまとわりつく…
私は怖くて目を開けられなかった。恐らく「コレ」は私の顔を覗き込んでいる。髪がバサバサ当たる。
どれだけそうしていただろうか…首に添えられた両手から力が抜けて行く。
「勝手に決めるなぁ…」
恨めしげな声。それを機に重さが消えた。残り香だけを残して。
私の10回目の目覚め。
木枕に変えたからだろうか。途切れ途切れの僅かな睡眠に「彼女」との思い出が湧き上がってきていた。
私は木枕を手放した。あんな幸せから落とすなんて…枕のせいにしなければ納得出来なかった。
「勝手に決めるな…か」
私は「未練」に思っていた。だからあんな生々しい夢を見たのだろう。
思えば別れらしい別れとは言えなかったかもしれない…
未練の証に彼女の番号は消せずにいた。
架けるべきか…
いや。単に彼女の声をもう一度…
終わり
夢で会えたら 太刀山いめ @tachiyamaime
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