あのトリが来る日
青樹空良
あのトリが来る日
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
『トリの降臨』
私はその夢のことをそう呼んでいる。
トリとはあの空を飛ぶ鳥だ。
あまりにも神々しい姿をしているので一般的な鳥と呼んでいいかわからず、いつの間にかトリと心の中で呼ぶようになっている。降臨などと仰々しい言葉を使っているのもそのせいだ。
トリはいつも私の年齢の数だけの花をくわえてくる。
今年なんかもう、トリのくわえている花がまん丸の球体に見えるくらいだ。それくらいトリのくわえている花の本数は多い。
トリは決まっていつも私の誕生日にやってくる。そして、それは毎年のことではない。
トリは10年に一度だけやってくる。
つまり今日は私の90回目の誕生日だ。
最初にトリが夢に現れたのは10歳になったときで、10本の花をくわえていた。それからトリは、花の本数を増やしながら現れ続けた。
どうやらトリは私を祝いにやってくるようだ。
「よっこいせ」
掛け声を出しながら私はベッドからゆっくりと起き上がる。最近はさすがに身体が動きにくくなってきた。
「おばあちゃん、おはよう!」
のそのそと部屋を出ると一緒に住んでいる孫がにこにこと私に笑いかけてくれた。この子もいつの間にか社会人になっている。
けれどこの笑顔を見るのが私にとっては未だに生きがいだ。
「お母さん、誕生日おめでとう!」
高齢の私が心配だからと同居してくれている私の娘も、嬉しそうに私の顔を見て言った。
「今日だって忘れてなかった?」
「忘れているわけないじゃない。ありがとうね」
私はさも当たり前のように答えた。
実のところトリが花束をくわえて来てくれなければ忘れていた。
トリに心の中でお礼を言う。
「今日の晩ご飯はご馳走にするから楽しみにしてて」
「それは、楽しみだね」
「お義母さん。おはようございます。どうしたんです? そんな嬉しそうな顔をして」
2階の部屋から降りてきた娘の旦那が私の顔を見て笑った。
「この子が私の誕生日を祝ってくれるって言うから嬉しくて」
「そうだった。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
私は笑って答える。
どうか、また10年後もトリが来てくれますようにと願いながら。
この幸せな日々がいつまでも続きますように、と。
あのトリが来る日 青樹空良 @aoki-akira
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