【KAC20254】これは一体何回目?
餅月 響子
夢を思い出した
ーーーあの夢を見たのは、これで9回目だった。
「やったー。やっと体重減ったよぉ〜」
お風呂上がりの体重計。いつも気にしていた。家族から太ってると言われ続けて、痩せる努力をしてきたつもりだった。体重計にいざ乗ってみると、目標より3キロも痩せていた。これは目標達成かに思われた。
「本当に痩せたの? 見た目は全然変わってないよ。食べ物だって変わってないじゃない」
「影の努力よ、影の努力」
弟の亮太はあることに気づいた。
「姉ちゃん、ちょっと待って。よく見な。これ」
体重計に電池が入ってないことに気づく亮太。数字は前回のままの数字が表示されただけだった。
「努力って裏切らなかったんじゃなかったの?」
「きっと。そうだと信じてるのヨォ」
泣きながら、体重計をぐるぐるとまわして確かめる。
「私の体重は一体何キロなのー?! ダイエットは成功じゃなかったの〜〜ーー」
天井を眺めながら泣く私に呆れた様子の弟の亮太は、いつもの通りにやり過ごしていく。まるで空気のような存在の私。泣き喚くところで、目が覚める。
「今の夢、だったんだ?!」
ダイエットの成功を夢見て、慌てて洗面所に駆け出し、電池が入った体重計に乗る。何ら変わらない体重の数字。がっくしと、うなだれた。そこへ、ペットの黒猫、おデブのジジが通りすがる。
「もう無理よ」っと言わんばかりの風貌だった。
飼い主に似るのだから、猫も私も同じってことねと意気消沈。洗面所でパジャマ姿のまま、ボクシングで負けた選手のように正気を失っていた。
「ねぇ、父さん。姉ちゃん、洗面所で死んでるよ。ボクサーみたいに……」
「ほっとけ。乙女心は複雑なんだよ。そっとしておくのが1番だ」
「誰がホットケーキじゃ、ボケーー」
どこからともなく現れたちゃぶ台を返す私。ひそひそと話す父と弟の言葉がチクチク刺さる。誰もホットケーキなどと言っていない。幻聴が聞こえたのだ。たぶん。
「やばい。姉ちゃんの頭がおかしくなった……」
「安心しろ、亮太。あれは前からだ!」
「え、あ、うん。確かにそうかもしれない」
私の目からビームは出るわ、煙は出るわ、大変なことになっている。怪獣に変身してしまう私は、父と弟を食べてしまいたくなる。
……と思ったら、これもまた夢だった。
目が覚めると、天井には怪獣になった私がへばりついている。
「そこは、夢じゃなかったのーーーー?!」
怪獣の私から逃げる人間の私。
現実って怖いことを知る。
「きゃーーーー、助けてーーー」
ペロリと舌なめずりをする恐竜の私は、豪快に家を破壊していった。
【 完 】
【KAC20254】これは一体何回目? 餅月 響子 @mochippachi
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