あの夢を見たのは、これで9回目のはず、夢のはずだ。
@aqualord
第1話
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
いや、8回目だったかも、10回目だったかも知れない。
・・・いや、やっぱり9回目だ。
はっきり数えることができる。
1回目は谷に落ちた。
2回目は谷に落ちたはずが、途中に生えていた木に引っかかった。
3回目は谷に落ちたはずが、途中に生えていた木に引っかかったのに、その木が折れてやっぱり谷に落ちた。
4回目は谷に落ちたはずが、途中に生えていた木に引っかかったのに、その木が折れてやっぱり谷に落ちた、と思ったら夢だったというオチだった。
5回目は谷に落ちたはずが、途中に生えていた木に引っかかったのに、その木が折れてやっぱり谷に落ちた、と思ったら夢だったというオチだったはずが、実は、その夢を見たのが電車の中での居眠りで、変な夢を見たせいで寝過ごして遅刻してしまった。
6回目は谷に落ちたはずが、途中に生えていた木に引っかかったのに、その木が折れてやっぱり谷に落ちた、と思ったら夢だったというオチだったはずが、実は、その夢を見たのが電車の中での居眠りで、変な夢を見たせいで寝過ごして遅刻してしまったはずが、行き先を勘違いしていて、間に合ってしまった。
7回目は谷に落ちたはずが、途中に生えていた木に引っかかったのに、その木が折れてやっぱり谷に落ちた、と思ったら夢だったというオチだったはずが、実は、その夢を見たのが電車の中での居眠りで、変な夢を見たせいで寝過ごして遅刻してしまったはずが、行き先を勘違いしていて、間に合ってしまったけど、その行き先に一緒に来るはずの同僚がなぜか来ていなくて、結局取引相手を怒らせてしまった。
8回目は谷に落ちたはずが、途中に生えていた木に引っかかったのに、その木が折れてやっぱり谷に落ちた、と思ったら夢だったというオチだったはずが、実は、その夢を見たのが電車の中での居眠りで、変な夢を見たせいで寝過ごして遅刻してしまったはずが、行き先を勘違いしていて、間に合ってしまったけど、その行き先に一緒に来るはずの同僚がなぜか来ていなくて、結局取引相手を怒らせてしまったと思ったら、その同僚が来る途中に道ばたで倒れていた人を救助していたことで遅刻したことが分かって、取引先が怒り納めてくれた。
そして、そう。やっぱり今が9回目だ。
9回目は、谷に落ちたはずが、途中に生えていた木に引っかかったのに、その木が折れてやっぱり谷に落ちた、と思ったら夢だったというオチだったはずが、実は、その夢を見たのが電車の中での居眠りで、変な夢を見たせいで寝過ごして遅刻してしまったはずが、行き先を勘違いしていて、間に合ってしまったけど、その行き先に一緒に来るはずの同僚がなぜか来ていなくて、結局取引相手を怒らせてしまったと思ったら、その同僚が来る途中に道ばたで倒れていた人を救助していたことで遅刻したことが分かって、取引先が怒り納めてくれたはずの相手の取引先の部長が、激怒している。
「いや、それは夢ではない。実際に私は激怒している。」
部長が、酷く低く、気迫のこもった声でわたしに告げた。
「たしかに、君たちが遅刻したのは事情があったのはわかる。しかし、君たちに預けていた、我が社の機密データが入ったUSBを、救助の際にどこかに落とした
、などと、許せるわけが無かろう。」
声を荒げているわけではない。
しかし、激怒以外の感情が一切交じっていないことがはっきりわかる、ゆっくりした口調で部長が私達を責める。
「あれが流出したら、どうなるか、君たちなら分かっているね。」
「はい。」
私達2人はうなだれる。
「直ぐに探し出します。少しだけお時間をください。」
わたしは部長の足元に飛び込むようにして土下座をして猶予を請うた。
「何を寝ぼけたことを言っている。遅刻してまで探したのに探し出せなかったから、君の同僚はここにいるんだろうが。言い訳はもういい。出て行け。」
ああ、やっぱり私は、谷に落ちたはずが、途中に生えていた木に引っかかったのに、その木が折れてやっぱり谷に落ちていたのだ。
あの夢を見たのは、これで9回目のはず、夢のはずだ。 @aqualord
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