短編111話  数あるまさに美しきまぶしさ!

帝王Tsuyamasama

短編111話  数あるまさに美しきまぶしさ!

「ついに俺も中学生かー! 中学生って響きはかっけぇよなー! かわいい妖精ちゃんみたいな女子と仲良くなりてーなー! でもなかなかそんな子と出会えるわけないか! ははっ! って! あ、あれはっ……!!」

 小学校のときからテレビゲーム好きだった俺は、しばしばゲームの内容を現実世界にも当てはめるふしがあった。

 当時プレイしていたゲームの中に、かわいらしい妖精のキャラクターがいて、見た目のかわいさだけでなく、信頼してくれた主人公に対し、一生懸命尽くす姿もこれまたかわいらしく。

 同じゲームをプレイしていた友達らからは「あぁあいつ使いやすいよな、バランスよく魔法整ってるし」とか「槍使って属性絡めたら物理攻撃もまぁまぁいけるよな」とか、そういうキャラクターの性能で語るやつらが多かった。とはいえ本来、雅木まさぎ 雪鉄ゆきてつもそっち系のやつだったはずなんだ。だったというか、今でもそうなのかもしれないがっ。

 しかし……出会ってしまったんだ。美木崎みきさき 愛華あいかちゃんという、まさに俺の中の妖精像そのものの女子と。


 それまで女子としゃべるときって、例えば最初のきっかけは、授業や掃除とかで班が一緒だったとか、給食や席替えとかで隣になったとか、部活部活動の仲間だとか、気づいたらしゃべって仲良くなっていたっていう感じだった。

 なのに、あ、愛華ちゃんだけは、見つけた瞬間、声をかけてみようって思って、緊張しながら声をかけたんだった。雅木と美木崎で出席番号隣だったのは、奇跡だと思った。ちなみに俺はまさ『ぎ』で愛華ちゃんはみき『さき』である。

 愛華ちゃんは、髪は肩を越すくらいの長さでさらさらつやつや。おとなしくて、単独行動することが多そうだが、声をかけられれば明るく応える、みたいなさ。

 たまに見せる笑顔が……あぁ。美しい。そりゃ名字にも美しいって漢字入るよなうんうん。

 俺の中学一年生は、美木崎愛華に嫌われないことに全力を注いだ一年間だった、と言っても過言ではないだろう。声かけまくって、でも嫌われないように細心の注意を払いつつ、仲良くなることに頑張った。


 そして……そして、とうとう…………

「へー! 愛華ちゃん最近そういうマンガ読んでるのかー! 俺普段ゲームばっかだけど、マンガもたまに読むぜ! そういうのは読んだことないけど、愛華ちゃんが読むんなら気になるな!」

「……じゃあ、うちに来る?」


 来てしまった美木崎にぃーーー!!

 白いソファーに座り、両ひざに手を置きリビングルームを見渡す俺! こんなにも緊張する生物だったのか俺!!

「これとか、これとか……」

 愛華ちゃんが持ってきたのは、二冊のマンガ。ひとつは田舎暮らしの幼なじみ中学生たちの恋愛物らしく、もうひとつは海辺の町に引っ越してきた転入生との恋愛物らしい。めっちゃ好きなんスね恋愛物の少女マンガ!

(絵はかわいらしくて好みである)

 というか学校じゃないから制服じゃない愛華ちゃんの、そのチェック柄スカートと薄ピンクのセーター装備かわいらしくて好みである!!

「拝見いたします!」

 俺が手に取ったのは……田舎暮らしの幼なじみ中学生たちの恋愛物だ!


(なるほど……俺たちが強いボスと戦うために装備や戦術を語り合っている間に、女子はこういうのを読んでキュンキュンというのをしていたというわけか……)

 俺だってゲーマーの端くれだっ。ストーリーを読んで感動することくらい、人生でたくさん積んできたってもんだっ。

 マンガの内容はいい。元気っ子な女子主人公も、料理炊事洗濯は得意というのも含め悪くはない。がっ……

(俺の左隣で一緒にソファー座りながらマンガ読む愛華ちゃんのこのたたずまい!)

 俺が美術部なら、このシーンを題材にしてコンクールに出るわ。

 軽くもたれながらも背筋はいいし、マンガを持つおててもきれいだし。大笑いこそしていないが、自然な形で楽しんでそうなお顔……。

 そんな愛華ちゃんが、今俺の左隣で、美木崎家で、そう、この空間に二人っきりで……。

(緊張する要素しかねぇ)

 どうしてもどうしてもちらっちらっ見てしまうのだ、愛華ちゃんのことを。やっぱ俺、恋してるっていうやつ、なんだろうなぁ……。

「……なに?」

「ぁあぁぃやいゃ、どうぞどうぞ続きをっ」

 今この空間で、俺だけににこっとしてくれる愛華ちゃん……。

 俺が好きなゲームでの妖精って、基本的には人間とは距離を置いている種族だけど、人間に興味自体はあって、信頼できる人間と出会えたら、小さな身体ながらも全力で支えようとする、健気なやつらなんだよ。

 まぁ愛華ちゃんは他のやつらと距離を取るような人物ではないんだが、そういう神秘的な存在っていうか、こう、守ってあげたい存在というか!

「どうしたの?」

「あぁぁどうぞどうぞ続きをっ」

 と、続きを読むようどうぞどうぞしたのだが、愛華ちゃんは読んでいたマンガを閉じて、机の上に置いてしまった。

(しまった! さすがにガンガンガン見しまくって嫌われてしまったか!?)

「休憩っ」

(あぁーっ。世界一かわいい休憩いただきましたー!)

 身体をこっちに向けて、身体の右側を軽くソファーにもたれながら、俺を見てくれる愛華ちゃん……。

 果たして俺は一体どこを見ればよいというのだ。さっきまで散々愛華ちゃんを見ていたくせにっ。

「おもしろい?」

「お、おおっ! 全然モンスターとの戦闘がなくて平和だな!」

「そうだね」

 一言一言が、ほんと……いい……。

「俺、結構ゲームでのことが現実でもあったらいいなーって思うことあるんだけどさ、やっぱ愛華ちゃんも、このマンガでのことが現実にあったらいいなーとか、あるかっ?」

「えっ?」

(しまった! 微妙な話題だったか!? 愛華ちゃんあんまりゲームはしたことないと言っていたしな!)

「……ちょっとは、あるかも」

(セェーーーフッ!)

 ほんとまじ嫌われるのだけは嫌だ……それだけはなんとしてでも避けねば……。

「た、例えばどういうとこだ?」

「えっとね……」

(どぅわ!)

 ああいやあのそのえっとえっと! どういうとこだとは聞きましたが、そんなに接近して一冊のマンガを二人並んで一緒に読みながら解説とかあのそのそういう意味ではあわわわてか腕当たってるしいいい!!

「こうやって、笑顔で一緒に学校から帰っているところとか」

「なななるほどなあ! でも愛華ちゃんすでに笑顔ですからー!」

 近いですう! 俺魔法よりも直接攻撃派なはずなのにい!

「そう?」

「そうそう!」

 お顔も近すぎい!

「……楽しいから」

(楽しいですからーーー!!)

 とりあえず予備の心臓ください……ドキドキ激しすぎて、ひとつじゃ足りません……。

(ぬ!?)

 このとぅるるる音は、電話かっ。あぁ離れていく愛華ちゃん。心臓の数的には助かったが、やはり離れていくというのはさみしさが。

「はい、美木崎でございます。はい…………父は今いないです……はい…………はい、わかりました……はい…………はい、伝えておきます。失礼します」

(俺があの受話器の持ち方しても、特に神秘性はないんだろうなぁ……)

 電話かぁ……そういえばまだしたことなかったなぁ。夏休みとか、してみようかなぁ……。

 なんてぼーっと考えていたら、愛華ちゃんが戻ってきて、再びソファーに座った。そしてまた、俺を見てくれた。

「や、やぁ」

 話し下手すぎじゃね俺?!

(そんな俺に笑顔してくれる愛華ちゃん天使!)

 天使なのか妖精なのか。美しいことには変わりない!

「雪鉄くんは、ゲームのどんなことが、現実に起きてほしい?」

「ぉ俺!? 俺はすでに起きてっから!」

 まさかそれ逆に聞かれるとはっ。

「どんなこと?」

「どんなことってー……」

 ……聞かれた以上は、答えねばな!

「妖精に出会えた!」

「妖精……?」

(しまった! 俺これやべーやつじゃね?! さすがに現実世界に妖精はいねぇよぉ! 愛華ちゃんは妖精以上の存在だと思うが!)

「ぁあーいやいや! 愛華ちゃんに出会えた!」

「私?」

(余計わけわかんねぇ流れになっちまったぁ!)

「よよ妖精っていうのは例えでさ! いやー俺の好きなゲームの妖精って、人間のこと信頼したらめっちゃ支えてくれるいいやつでさ! 見た目美しくてかわいいだけじゃなく性格も清らか! もちろん戦闘でも頼もしいし、街の中でのイベントもかわいらしくて人気なんだ! 友達らは魔法の幅とか槍との組み合わせとか言ってっけど、俺は戦闘と関係ないとこも結構好きだぜ!」

 そう! これはあくまでゲームにおける妖精のお話だ!

(しまったぁー! ついあせってゲーム話にかたよってしまったぁ! これはピンチかぁ?!)

 愛華ちゃんが、いつもよりも少し視線が下がっている!

「……私、妖精みたい、なの?」

(?! こ、これは……何と答えるのが正解なのだ!? しかし……しかし、ここは素直に! 正直に! 真正面から!)

「はい! 妖精以上に大好きです!」

(………………んぬぅ?!)

 合っている! 間違っていない! だが言い方!? あれ、これ、この言い方! これ、あれえっ?!

 ああっと愛華ちゃんの視線がさらに下がってしまった! ひじが伸びている! これはよいのかまずいのかどちらなのだあ!

「……ありがとう」

(よかったぁーーー!!)

 間違っていなかった俺! 自分を信じてよかった俺!!

「ど、どういたしまして!!」

 感謝の気持ちを伝えておかないとな!

「……来週も……遊ぶ?」

 ふぉっ……?

「い、いいの、かっ!?」

 愛華ちゃんと遊ぶことを、この世で許されているのか俺は!

「お出かけ、する?」

「す、する!」

 女子とお出かけ!? 妖精と一緒にお出かけ!? 愛華ちゃんとふたりでお出かけぇ!?

「どこにお出かけする?」

「ど、え、えーっと……」

 俺は思わず手元にあったマンガをぱらぱらめくって……

「遊園地!!」

 主人公と幼なじみは、小さいときから家族ぐるみで遊園地に行っていたという設定だったから!

「……うん」

 うんいただきましたあー!!

「雪鉄くんからは、初めて言われることが、いっぱい」

「は、初めて言われること?」

 いつも愛華ちゃんの前では一生懸命ですから俺!

「妖精とか、モンスターとの戦闘とか……だいすき、とか……」

「あーっ! いやまあそのなんといいますか! 俺ってそういうやつだから!!」

 何を言ってんのか自分でもよくわからんが!

「……くすっ。そうだね」

 あぁ……もうその美しく輝く笑顔で、ずっと俺の前でたたずんでてほしい……。

(…………頑張ろうっと!!)

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