【KAC2025】千石と猫と妖精と
千石綾子
千石と猫と妖精と
我が家には2匹の猫がいる。12歳と13歳の女の子だ。人間の年齢で言うと60代になるらしい。だから女の子、というには少々
名前はそれぞれハナとまろん。ハナの方が年上で、やんちゃでやきもち妬きだ。まろんはお姉ちゃん(血のつながりはないが)大好きっ子でマイペース。そしてここ数年お腹が緩い。
まろんのお腹については地味に気長に通院しているばかり、ということで割愛する。
問題は、ハナだ。ハナは非常に個性的で面白い。犬のようにやたらと顔や手をべろべろと舐めてくるだけではない。顔を
その傷の見た目は仕事に差し障るレベルだが、可愛いので制止できずに今日も私の皮膚には生傷が刻みつけられていく。
しかしハナの問題は実はそこではない。
彼女は猫だ。猫と言えば狩りをする生き物だ。そしてやんちゃな彼女はこの狩りが大好きだ。
私の家の周りは
妖精と言っても、皆さんが想像するティンカーベルのような、ドレス姿の可愛い女の子とはビジュアルが違う。私の目の前で猫の口からはみ出していたのは、体中を緑色の
「うわ、キモっ」
そう思わず口にしてしまう程には珍妙な生き物だ。ぐったりとして目をつぶっているので可哀想に、お亡くなりになってしまったか、と思って見ていた。するとその妖精はむくりと上半身を起き上がらせてじろりとこっちを睨みつけた。
「キモいとか、初対面で失礼すぎない?」
「ご、ごめん」
素直に謝ると、妖精は機嫌を直して言った。
「まあいいや。俺たちにとってもニンゲンはヌメヌメしててキモいからな。……それよりそろそろ助けてくれ」
助けてくれ、と言われて私は
よく見ればこの妖精も、口の中に鋭い歯がちらちらと見え隠れしている。自分を狩った猫の飼い主に恨みを持って仕返しをしてくるかもしれない。
「痛っ……いてて。早く助けてくれないとこのまま喰われちまうよ」
悲鳴に近い妖精の声に、私は
「助けても、仕返ししない?」
「助けてもらって仕返しなんかするかよ」
「頼むよ。助けてくれたら一つ恩返しするから」
「恩返しって、何?」
「何でも一つ願いを叶えてやる。それでどうだ?」
願いを一つ。何でも叶える。ああ、なんて甘美な響き。
「乗った。絶対に約束守ってよ」
「わかった。妖精に二言はない」
なんか妖精が武士道かましてるけど、ここはスルーで。私はハナを抱きかかえて、そっと口から妖精を救い出した。
妖精はぴょん、と着地してぺこりとお辞儀をした。なかなかお行儀がいい妖精だ。
「では願い事を1つ言いたまえ」
大仰に妖精は私の方に右手を突き出した。私は迷うことなく願い事を口にする。
「まろんのお腹緩いのを治して」
「随分ちっちゃい願いだな」
「うるさい。猫様の健康問題ほど重要なことはないのだ」
「うわあ猫下僕発言」
「いいから叶えてよ」
猫に喰われそうになってた割には随分元気だ。妖精は防御力が高いんだろうか。そんなことを思っていると、妖精はぴょん、と私のバッグの上に飛び乗った。あ、それ
何が起きるのか、何をするつもりなのかと見守っていると、バッグの中からスマホを出してきた。ロックがかかっていたはずのスマホのブラウザを立ち上げて、何やら打ち込んでいる。
「何やってるの。今まろん連れてくるから……」
そう言って立ち上がろうとした私を制して、妖精は私にスマホを返して
「ググレカス」
そう言うと、妖精はにやりと笑ってぱっと姿を消した。キラキラ、と魔法でも使って治療するのかと思っていた私は
それからずっとあの妖精には会っていないが、すぐにあの検索結果で見つけた動物病院に変えた。すると程なくまろんのお腹が緩いのが治ったのだった。
皆さんも覚えておいて欲しい。妖精は信用ならないが、Googleはあてになると。
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お題:妖精
【KAC2025】千石と猫と妖精と 千石綾子 @sengoku1111
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