アストラルの影
スク
第1話
あらすじ
天界の魔法と深淵の闇が永遠に争う世界で、堕ちた騎士と呪われた王女が、運命・裏切り・そして太古の闇の力によって絡み合う宿命に立ち向かう。
カイレン・ヴェイルハート——かつてアストラル騎士団の誇り高き司令官であった彼は、祖国の崩壊を招いた裏切りの末に追放された。彼の身体には深淵の呪いが刻まれ、その闇は常に彼を囁き、破滅へと誘う。裏切り者として恐れられ、怪物として追われる彼は、光と闇の狭間で揺れながら、己の魂を守るために戦い続けている。
エリンドラ・ヴァエリス——ヴァルセリア王国最後の王族の血を引く彼女は、ある古代の予言の謎を追い求めていた。その予言は、世界を救う者か滅ぼす者のどちらかとなる運命を持つ戦士の到来を告げていた。彼女の天界の魔法は、血のように赤い瞳を持つ戦士の姿を見せる。そしてついに、囁きの森でカイレンと出会ったとき、彼こそがその鍵であることを知る。
しかし、運命はすでに動き始めていた。深淵の王アスモダイは、奪われたものを取り戻すために闇の軍勢を動かす。彼が求めるもの、それは カイレンそのもの だった。そしてカイレンの中の深淵の力が日に日に増していくなか、エリンドラは究極の選択を迫られる——
彼を救うのか、それとも彼が完全に堕ちる前に殺すのか。
神話的な戦い、禁忌の魔法、心を引き裂く愛、そして運命と自由意志の永遠の戦い。
カイレンとエリンドラが進む道の先には、裏切りと悲劇、愛と犠牲が待っている。彼は果たして、世界の救世主なのか、それとも破滅をもたらす者なのか——?
深淵が覗き込むとき、お前は抗うか、それとも堕ちるか?
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第2章: 月光に染まる剣
1: 囁きの森
それは異常な沈黙だった。
まるで森全体が呼吸を止めたかのように、風は止まり、木々は動かず、星の光すら不安げに揺らめいていた。
エリンドラの隣には、カイレン・ヴェイルハート——亡国の騎士、裏切り者、そして彼女が夢で何度も見た男が立っていた。
彼の銀髪は汗と血に濡れ、月光の下で儚く輝いていた。しかし、彼女が最も目を奪われたのは、彼の瞳だった。
赤い。燃えるような赤。そして、何かに囚われたような瞳。
悪夢の獣たちは彼を見た瞬間に怯えて逃げ去った。エリンドラはそれを不審に思った。彼女は学者として多くの魔法を学んできたが、深淵の怪物は決して無意味に退かないことを知っていた。
カイレンが静かに言った。
「お前はここにいるべきじゃない。」
エリンドラは呼吸を整えた。彼の声には何かがあった。ただの警告ではない、それ以上の何か。
「この森はヴァルセリアの領地よ。私にはここにいる権利がある。」
カイレンは冷たく笑った。「違うな。」
彼は森の奥の闇を見つめた。
「この森はあいつらのものだ。」
遠くから、獣のうなる声が響いた。それはただの音ではなく、この世界の理そのものが揺らいでいるような異様な響きだった。
エリンドラは剣を握りしめた。「なら、戦うまでよ。」
しかし、カイレンは静かに首を振った。
「これは剣や魔法で勝てる戦いじゃない。これは意思の戦いだ。心を支配されれば、お前は自分自身を喰われる。」
エリンドラは彼を見つめた。「なぜ、そんなことを知っているの?」
カイレンは静かに左手を持ち上げ、袖をめくった。
エリンドラは息を呑んだ。
彼の腕には黒い血管が這い、まるで何かが生きているかのように蠢いていた。
「俺は、かつてあいつらの一部だったからだ。」
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6: 深淵の囁き
突然、空気が変わった。冷たく、重く、肌を刺すような感覚が森を覆った。
「もう行くのか?」
その声は、どこからともなく響いた。
大地が震えた。影が形を持ち始め、まるで生き物のように蠢きながら、黒衣の存在が闇の中から現れた。
「カイレン・ヴェイルハート。」
その声はまるで毒のようだった。
「深淵はお前を待っていた。」
カイレンの瞳が鋭く光る。「待たせて悪かったな。」
黒衣の影が笑った。
「お前はすでに堕ちているのではないか?」
そして影はゆっくりと手を差し出した。
世界が歪んだ。
エリンドラは目の前の景色が崩れるのを感じた。木々はねじれ、空が割れ、漆黒の奈落が広がっていく。
そして、その闇の中から巨大な手が伸びてきた。
カイレンは動けなかった。
影が囁いた。
「お前は我らのものだ。」
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8: 運命の選択
エリンドラは迷わず、カイレンに向かって飛び込んだ。
「カイレン!」
彼女の魔法が黄金の光となって彼を包む。
深淵の力が後退する。影が苦痛の声をあげる。
カイレンは、エリンドラの瞳を見つめた。
彼女の光が、彼の心の暗闇を照らしていた。
そして彼は悟った。
この戦いは、まだ終わらない。
アストラルの影 スク @taviee_7
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