アンチフェアリーテイル

大黒天半太

妖精はもういない

 魔法と魔力に満ちたこの世界で、妖精だけがもう存在していない。


 妖精狩人フェアリーハンターのここ数十年の活躍で、この国から妖精が駆除され、絶滅宣言がなされてから、すでに十年が経っていた。


 所謂いわゆる書記官クラークの三法則』の『三,十分に洗練された魔法技術は、妖精の悪戯と区別がつかない』により、妖精の仕業と呼ばれるモノゴトは、ほとんどの場合、魔法で再現することが出来ると考えられているため、妖精がいなくても世界は、回って行くのである。


 新鮮なハズの牛乳は、妖精がいなくても、目を離すと酸っぱくなったり、腐ったり、或いはヨーグルトになったり、チーズになったりするのである。

 そこに、何も不思議は無い。魔法と技術があるだけである。


 え? 妖精は見えないだけでいるはず? そうでないと説明がつかない?


 一口に人の思い込みってものを払拭して、真実を認識してもらうってのは難しいね。


 まぁ、こっちに来てみなよ。こっち、こっち。さぁ、コレ一口食べてみな。


 美味いチーズだろう? 実際の話、妖精の力を借りてると周りに思われるのは、仕方ないとも思うよ。使ってるのは、同じく目に見えない小さい生き物だからね。

 ただし、ミルクの味を変えるのも、チーズに固めるのも、この小さな生き物達の力で、コイツらは過ごしやすい温度とミルクを腐らせる他の小さな生き物を入らせない工夫をしてやれば、きちんと働いてくれる。


 魔法と技術は、準備と順序に従って結果を出すんだ。妖精みたいな気まぐれは起こさないのさ。


 ほら、ちゃんとチーズが出来上がる……ちゃんとチーズが……。


 警報発令! 警報発令! 妖精の悪戯イレギュラー発生!! 妖精の悪戯イレギュラー発生!!


 妖精狩人フェアリーハンター至急召集せよエマージェンシーコール


 ミルクが、チーズが固まらず腐らせられた! チーズ工房と敷地を全封鎖の上、妖精狩人フェアリーハンターの到着に待機せよ!

 繰り返す! チーズ工房と敷地を全封鎖の上、妖精狩人フェアリーハンターの到着に待機せよ!

 これは、演習ではない!


 妖精狩人フェアリーハンター達は、一分の隙もない銀の頭巾と衣装で身をかため、妖精を一瞬で酔わせて無力化する高濃度の酒精アルコールを吹き付ける霧吹きのような道具と、妖精の目を眩ませて追い払うという人の目には見えない光ウルトラバイオレットを放つランプを使って、チーズ工房の敷地を隅から隅まで検分して行く。


 妖精ってヤツは、全く油断も隙もない。

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アンチフェアリーテイル 大黒天半太 @count_otacken

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