セキトリとシリトリ
ただのネコ
さて、本文中に「とり」はいくつあるでしょう
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
老いた私は電車に乗る。優先席に座りたいが一人の太りきった関取が真ん中に座っているので座れないのだ。
「詰めてくれんかね、相撲取りさん」
「年取りだからって、関取の俺から席を取り上げるのか。なら、しりとりで勝負だ!」
その受け取り方は心外だが、座りたいのは事実。しりとり勝負をするのだが、毎回勝てない。この関取、いつも語尾が「り」で終わる言葉を返してくるのだ。
3回負けた後に辞典で「り」で始まる単語を勉強した。負けなくなったが、朝まで粘られて勝てない。
ならば「り」攻返しだと「り」で始まって「り」で終わる単語を覚えていったが……1つ言ったところで目覚まし時計が鳴って目が覚めたのが8回目。
だが、9回目の今度は一味違う。
いつもは関取と俺の2人しか出てこない夢に、追加キャラとしてトリの降臨があったのだ。
妙にプリッとした尻をこちらに向けてたたずむアヒル。俺はこのトリに見覚えがあった。
友人にこの夢の話をしたら、「しりとりの守護神をくれてやろう」とぬいぐるみのアヒルをくれたのだ。尻が立派な鳥だから
下らない駄洒落だが、夢の中でこうして加勢してくれるとはありがたい。尻鳥は関取をさしおいて言う。
「早速しりとりだ。今日は3月3日だから『ひなまつり』からな」
関取も文句は言わず乗ってくる。
「リエントリ」
尻鳥、関取ときているのだから、俺の番だ。
「リベリア」
「あこがれ」
「レジストリ」
「
「
「
(もしかして、「り」攻めじゃなくて「とり」縛りなのか?)
「リストランテ」
「
「受け取り」
「リグ・ヴェーダ」
「ダンス」
「
間違いない、と確信した俺は、尻鳥と目配せをする。「り」で始まって「とり」で終わる単語なんてほとんどない。それを先に言ってしまうのだ。
「リポジトリ」
「リュトリ」
スイス建国の地名が決め手になった。
「……参ったトリ」
関取がそう言って席を立つと、ポンと音を立てて鳥の姿になる。関取から席を取り上げた結果、鳥だけが残ったというわけか。
そう納得した瞬間、目覚まし時計が鳴った。
目が覚めた時、俺の布団の中には二羽のトリのぬいぐるみがあった。
セキトリとシリトリ ただのネコ @zeroyancat
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