彼女は、怪奇の国に棲む。

うびぞお

とまれ彼女は映画を語るKAC20253

 わたしのスマホに悪友から 『私フェアリーだった』という謎メッセージが届いた。


 妖精フェアリー

 

「何これ?」

 呟くと 彼女がそれを後ろから覗き込んだ。

「インフルエンザ陽性だったんですね。大丈夫でしょうか」

 そういう意味か。そういや熱と咳がヤバいから 講義出れないって昨日連絡あったっけ。

「あいつは全然平気」

 狭量なわたしは 彼女の優しさを僅か芥子粒ほどでも 友人にですら 分け与える気はない。そんなわたしに彼女は呆れ顔をした。


「それにしても 自分のことを妖精だなんて よく言うわ、あいつ」

 悪友は妖精とはかけ離れた外見パンクファッションを好む。そう言うと彼女が偉そうな表情かおでこちらを見る。

「あなたは妖精っていうと ティンカーベルしか思い浮かばないんですね」

「え、妖精ってそういうのでしょ? 羽の生えた小さな女の子」

 彼女がニコニコしている。これは誘い受けだ。分かっていても乗せられてしまいたくなる。

「……妖精のホラー映画って」

「待ってました、その言葉」

 食い気味で答が返ってきた。これでは自ら罠にかかってミイラにされるミイラ トリの降臨 だ。


 そうして見せられたのは、ダーク・ファンタジーなるジャンルの映画。

 戦後の内戦に荒れるスペインで 軍の砦で暮らし始めた少女。孤独の中、妖精に連れられて少女が訪れた地底の王国は おぞましくも美しい。少女は 現実の世界でも地底の王国でも 残酷に追い詰められていく。少女が最期に辿り着いたところはどこで、少女は果たして幸せになれたのか。


「酷く、ない?」

 映画を見終わったわたしがぼやく。わたしには少女が哀れに見えた。

「妖精の仕業ですよ」

 妖精は見た目が可愛いだけの あやかしの異生物で 酷いことも残酷なことも ただの遊びにしてしまう。


「妖精ってなんだかあなたみたい。見た目は可愛いのに、ホラー映画の世界で 怖いものを楽しんでる」

「私は別に可愛くないですよ」

 そう言って笑う彼女に わたしは手を伸ばす。彼女は童顔で見た目は少女こどもっぽい。

「どっちかっていうと座敷童ざしきわらしよね」

「それ、日本の妖精、てか妖怪じゃないですか」


「でもわらしじゃないわね」

「そうしたのはあなたですよ」


 

 彼女が妖精のように不敵に微笑み、わたしはそれに吸い寄せられた。

 


 



★☆

ネタにした映画『パンズ・ラビリンス』


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女は、怪奇の国に棲む。 うびぞお @ubiubiubi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ