私の怪物

みこ

私の怪物

 彼女は妖精だった。


 初めて会った時から。


 だから事あるごとに見惚れたし。


 私はあなたが大好きだった。




 初めて会ったのはそう、学校の廊下で。

 まどかは転んだ私に、声をかけてくれたの。


 転んだ無様な私。

 それを助けるまどか。


 初めから、立場は目に見えていた。


 そのシュルンとした黒髪を靡かせる姿とか、小柄な体格とか、それでいて自由気ままな笑顔とか、性的じゃないのに魅力的な姿は、どこを取ってもまさに妖精だった。

 羽が生えてないのが嘘みたい。


 その時から、同じクラスって事で、まどかは私と一緒に居てくれたの。


 勉強も運動も出来るまどかには、友達なんて選び放題だったはずなのに。


 最初の頃は私もまだ子供で、無邪気に隣に居た。


 運動が出来るのを見た時には、じゃあ私は勉強頑張ろうとか。

 勉強も出来るのを見た時には……。


 なんて思ったっけ?


 私は勉強が得意だから、なんて、驕りだったんだってわかった。


 だって、私がどれだけ勉強しても、まどかの成績には追いつけなかったんだから。


「どこの塾行ってるの?」

 なんて、探りを入れるように聞いた事があった。

 けど、まどかはこう言ったんだ。

「塾には行ってないの。学校の勉強だけ」

 って。


 そんなの、嘘だって思って、家にお邪魔した時、何かないか探してみた。

 塾のテキスト?家庭教師の気配?難しい問題集?


 けど、何もなかったの。

 呆気ないくらい。


 出て来たのは美味しいさっぱりした柑橘系のジュースと、妙に美味しいケーキだけ。




 虚しい。

 虚しい。

 虚しい。




 そして、その日がやって来たの。


 山本くんが。


 最近、やっと話が出来るようになった山本くんが。


 どうしてあなたの隣に居るの?


 笑ってる。

 二人で笑ってる。


 私だって頑張ったよ。


 見てるだけじゃ嫌だって、友達にもなったよ。


 用もないのに話しかけられるようにもなったよ。


 けど、あんな風に隣には居てくれない。




 鏡に映る私は醜いの。


 あの子みたいに綺麗な髪じゃない。

 バサバサの髪。


 カサカサの唇。


 メイクだってあんな風に上手くない。


 私服もあんなに可愛くない。

 お気に入りのトレーナーも、子供っぽいものにしか見えなくなった。


 要領だってあんなによくない。

 まどかが「はち切れそうだよ?力抜こうよ」なんて、言ってくれるけど。

 私は力を抜くと、普通の人にすらなれなくなってしまうの。




 私は気づいてしまったんだ。


 自分が飼っている怪物に。


 どこまでも醜く、どこまでくも低脳で、どこまでも理想だけが高い、最低の自分。




「ねえ、新しいショップ出来てさぁ。土曜日オープンなんだけど、一緒行かない?」


 まどかが見せてくれたサイトに目を落とす。

 オシャレなショッピングビル。


「いいや。私、あんま興味ないし。別の子と行っておいでよ」


 もう一緒にいたくないから。


「別の子……。って誰?」


「誰って……。カオとかサアヤとか?」


「用事でもあるの?」


「ないけど。ただ、興味ないだけだって」


 行きたくなかった。

 オシャレな人達の中で、それに目を輝かせているだけのお子様にはなりたくなかった。


「…………じゃあ、あたしも行かない」


「なんで?」


「………………だって、嘘じゃん。興味ないなんて。好きじゃん。こういうキラキラしたの」


「本当に……興味ないって……」


「清楚系に全振りって事!?」


「え?」


 確かに、山本くんの好みが清楚系だって知って、「そういう服着ようかなぁ」なんて、言った事はある。

 けど、ここでそんな事言う?


 惨めになんてもうなりたくないんだ。


 これ以上この怪物を、育てさせないで……!


 けど、こんな時だって、まどかの方が一枚上手だったんだ。


「いーやー!」


 え???

 何言ってんの?この子。こんな教室のど真ん中で。みんな注目してんじゃん。昼休みいるメンバーは全員じゃない。全員じゃないけど。別のクラスの子だっているのに。

 何?何?何???


「私が一番じゃなきゃいーやー!!彼氏なんて作んないでー!!」


 けど、もう、まどかは止まらなかった。


「私誰とご飯食べればいいの。誰と趣味の話したらいいの。ミサキはうちに嫁に来てー!!」


「何言ってんのもう!一回断っただけでしょ!」


 半泣き状態のまどかはやっぱり妖精だった。


 私の怪物を引き剥がしたのもコイツ。




 気づいてないのは私だった。


 なんでこの子が私の隣に居るのか。


 なんで家に呼んでくれたのか。


 なんで最高級のケーキが出て来たのか。




 この子の趣味の話についていけるのは私だけだった。


 別に金持ちなのを鼻にかけたこともなかった。


 別の子にチヤホヤされて、嫌がってるのを知ってもいたのに。




 こんな事で私の劣等感が全部なくなるわけでもないけど。


 山本くんと話した日に、「彼氏作んないで」なんて叫ぶ羽目になった理由を私はまだ知らなくて。


 けどまぁ。


 結局、私の怪物は落ちてどこかへ行ってしまった。




「一番好きなのは私だから!キモに命じておいて!」

「はいはい」

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私の怪物 みこ @mikoto_chan

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