「女子高生が失恋する話」
結晶蜘蛛
「女子高生が失恋する話」
私は普通の高校生。
成績も中ぐらい。テストなんて愚痴の言い合いのネタでしかないと思う。
運動も人並み程度で、体育の時間より待ってる間に友達としゃべってる方が好き。
そんな私だけど、ちょっとだけ人と変わってるところがある。
それは文芸部の先輩が好きということだ。
†
私の通う東京都立桜ヶ丘高等学校は部活に入ることを義務付けられている。
だから私は楽そうという理由で文芸部を選ぶことにした。
友人から聞いた話による幽霊部員をしている子も多いみたいだから、私も適当な部活に入って、あとは幽霊部員として過ごすつもりでいた。
「こんにちわ」
文芸部の扉をたたいた時、先輩がいた。
腰元までの栗毛、丸い目元、不愛想な表情。
どこかお人形さん染みた表情で私を見ていた。
「もしかして新入生の子? 入部届けをもらいに来たのかな」
「そうなんですよ、私は文芸部に入ろうと思いまして」
「そうなんだ……ちょっとそこに座ってて、いま探すから」
文芸部の本棚には本が並べられており、パソコンなどが置かれていた。
少し暗い部室であるが、私物は先輩一人分しか置いていなかった。
「君、どんな本が好きなの?」
「えっと……」
小説なんてほとんど読まないから、私は少し戸惑った。
文芸部といえば、お堅い本を読んでるイメージがあったから、漫画の名前を言ってもいいのか迷ったからだ。
でも、ほかには思いつかずに、素直に流行っていた漫画の名前を言った。
「あ、それ、わたしも読んでるよ。今週号で主人公が敵に啖呵を切るところがいいよね」
「え、ええ! これまでずっと敵がいいようにしてたから、あそこでスカッとしました!」
「本当だよね。いままでむかついてきてたから、あの驚き顔で思いっきり笑ったわ」
「わかります!」
時間としては短かったが、意外と話が弾む。
そうこうしているうちに、先輩が入部届けを持ってきてくれた。
「文芸部員、いまはわたししかいないからできれば入ってくれると嬉しいな」
「あの、ここ漫画を読んでも大丈夫ですか?」
「本を読むなら何でもいいよ」
「それなら入ります」
「よかった。……わたし一人だけで寂しかったんだ」
そしてにっこりと先輩は笑った。
不愛想な印象だったのに、その笑顔はやたら可愛らしくて。
つい、私は先輩に恋をしてしまったのだ。
†
「――告白を受け入れてもらえたの」
「え」
私は思わず胸を押さえたくなった。
そんな言葉ききたくなかった。
確かに、最近の先輩は気になる人がいて、そのことについて相談を受けていたけれど。
できれば破断してもらえないかな、と私は思ってて――そんな自分で嫌だから、先輩の恋を応援していたけれど。
いや、先輩の魅力は私が知ってるから、告白なんてしたら絶対に成功するとは思っていたけれど。
「これも君のおかげだね。ずっと相談に乗ってくれてありがとう」
「――――、おめでとうございます」
笑う先輩の顔はすごく明るかった。
まるで出会ったときの笑顔のようだ。
やめて、あの時の思い出までもっていかないで。
でも、そうやって笑うというのはすごく嬉しいんだと、この1年の付き合いでよくわかっていた。
だから、これは問題があるのが私の方で……。
「うん。今日はその報告に来ただけ。本当にお世話になったからね」
「そんなことはないですよ。……先輩が勇気を出したからです」
「そんなことないわ。君の後押しがなければ絶対に告白できなかった」
「そう……、ですか」
言葉を失ってる私に、先輩は頭を下げて、
「それじゃあ、今日は彼が待ってるからまた明日」
「ええ、また……明日です」
扉がしめられ先輩はいってしまった。
部室に残された私はストンと椅子にすわる。
「……どうすればよかったかな」
先輩のことが好きだから、先輩に幸せになってほしかった。
でも、先輩が告白して幸せになるってことは私の元から去っていくってことで……。
本音を言うなら私の元にずっといてほしかった。
この部室で先輩から本の解説をしてもらいたかった。
でも、それは私のわがままで……。
「……ちゃんと笑えてたかな」
せめて、先輩には何も悟られずに幸せになってほしい。
だから、私は笑顔で先輩を送り出せたか、それが気がかりだった。
「女子高生が失恋する話」 結晶蜘蛛 @crystal000
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