僕の幸せな就職
土井タイラ
僕の幸せな就職
新卒で町役場に就職した僕は、そこで幼馴染のアヤカに再会した。
「久しぶり、カズキ。じゃなかった、森さん。配属先どこだった?」
「観光課。アヤ……鈴木さんもだよね?」
「あ、昨日までね。
まじかー。がっかり。
「観光課の妖精には要注意だよ」
という助言を残してアヤカは去っていった。彼女はすでにキャリア三年めだ。
観光課の妖精とは、なぜか長年異動しないおじさんのことだった。やたらサボるから姿が見えない。予告なしに観光課の共有フォルダを整理して、大事なファイルを行方不明にさせる。
妖精はパソコンに詳しいらしく、僕がフォルダと言うとディレクトリと言い直してくるし、僕が「森カズキ」という個人用フォルダを作ったら、パスは半角英数字にするものだと言い張って無駄に「KazukiMori」にされた。アパレルブランドかよ。
そんな辛い日々の中、癒しをくれるのはアヤカの残した引継ぎ資料だった。
パソコンが苦手なアヤカは、手書きのメモを丁寧にファイリングしていた。先輩職員としての気遣いを感じる。
が。
「あいかわらず、字が汚え」
思わず声が漏れてしまう。
電話応対の資料に、どうしても解読できない単語がある。
ラルクトリノコーリン エクセル
何これ。
ラルク? バンド名?
L’歩くトリの降臨? まあ最近のバンド、日本語名が多いからな。日仏折衷でオリジナル感がある。
待てよ。よく見るとトリとノコーリンの間に少し隙間があるかも。
あー、わからん。本人に聞こう。
「ごめーん、書き直そうと思って忘れてた。それ、かけちゃいけない電話番号のリストなの」
「と、言いますと?」
アヤカは休み時間に僕の席に来てくれて、僕のパソコンでファイルを表示させた。
\\FServer1\07 Tourism\Directory\no calling.xlxs
僕は声に出して読み上げる。
「ファイルサーバーイチ、ツーリズム、ディレクトリ、ノーコーリング」
「妖精が『ディレクトリ作ってリスト入れといて』って言うから。メモはカタカナだけど、パソコンではちゃんと半角にしたよ」
ラルクトリじゃなくてディレクトリかよ!
「つかれた……」
「よしよし。お姉さんの奢りで飲みに行こうか」
僕の幸せな就職 土井タイラ @doitylor
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます