星
渋川伊香保
星
星
見上げると星空だった。暗いはずの夜の空が嘘のように明るい。
ああ、こんなに輝いていたのか。それに気づかなかったのか。
「牡丹くん」
低く呼ぶ声に振り向く。
「ああ、導火さん。見てくださいよ、あの空」
「そうたな」
と導火さんは見もせずに言う。星の明かりに背を向けて、暗がりに蹲ってごそごそと何かをしている。
「見ないんですか。ほら、あんなにも……」
「君はそんなにお喋りだったか」
こちらを振り返りもしない。
しばらくそうやって何かをしていたが、やがて立ち上がった。
「終わったんですか」
「ああ。……いや、まだだ」
「ならば見てくださいよ、空。すごいですよ」
諦めて振り返って空を見上げた導火さんの表情が忘れられない。みるみると目を見開いていき、瞳の中に満面の星空を映す。
「ああ、こんなにも、美しかったのか……」
しばらく呆然と空を見上げ、やがて振り向いた。
「牡丹くん、最後にいいものを見たな」
「ええ」
本当に、美しかった。空も、導火さんも。
「始まりました、今宵の夜空を彩る花火大会です。まず打ち上がりますは、加藤煙火店によります、牡丹花火です……」
星 渋川伊香保 @tanzakukaita
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます