村娘と、愉快な妖精達

蠱毒 暦

無題 『王』は騙し、『友』を生かす

「ようこそ…難民の方ですか?では、身分を証明出来る書類等をお出し下さい。今は魔王軍との戦時下ですので…お手数おかけします。」


〔は?町に入るだけで一々、証明書とか出すのかよ…ダリィなぁ。強行突破しようぜ。〕



ダメ。そんな事したら犯罪者になっちゃうよ。



[…彼女の言う通りだ。モード、当世のルールには従った方がいい。]


〔硬えなぁランロット…これだから童貞は。〕


[なっ!?それは関係ないだろ…『妖精』は生殖行為などしなくても生きて…]


(でもヤるのは気持ちがいい!芋を食う次くらいだが。)


[ガウェイ!?君まで、そんな事を…]


私は中から聞こえる声を無視して、持って来た書類を門兵に渡した。



「はい。一部、焼けてますけど…どうぞ。」



渡された書類に目を通しながら、私がつけている首飾りをチラリと眺めた。


「名前はリリア・フェアリティ。住んでいた村の名は…おや。随分と、立派な…」


{下衆が。我が妻をジロジロと…その不細工な声を盛大に響かせた上で、殺してやる…!!!}


《それ…誰が決めたんだよ。》


{黙りたまえ。これは我の決定である。}



え…そ、そんな目で見られてるの?確かに、服は所々、血痕とか土で汚れてるし…少し、恥ずかしいな。



{恥ずっ…!?ならば殺す。すぐ殺す…来たまえ我が…っ。}


【むにゃむにゃ…】


[落ち着けリータン。門兵が見ているのは、彼女ではなく、あの首飾りだ。君もそう安易と動揺しないで欲しい。]


〔あぁ?さっきまで、童貞だからって動揺してたの…誰だったかな〜〕


[……。]


《ランロット…お前が『妖精』の中で、唯一の童貞でも、オレは絶対、見捨てないから。》


[…やめてくれパーシ。これ以上…惨めな気持ちにさせないでくれ。]


(それよりも芋…芋が食べたい。マッシュでも…じゃがバターでも!)



「か、形見…なんです。」


苦笑いを浮かべながら、私は嘘をついた。


……


思い出が…何もかもが燃えていく。


数ヶ月前の昼頃。魔物がこの辺境の村を襲撃した所為で、私の平穏は唐突に終わりを告げた。


背後から悲鳴や慟哭が聞こえるが、それでも足を止めず、私は畑の中を一直線に走る。


その行為に理由も意味もない。私は両親が身を挺して庇ってくれた。だから、それに報いたいと思った。それだけだ。


「…うっ。」


違う。嘘だ…私は、こんな事をした奴らに復讐がしたかった。それが、私の我儘だとしても…


——私達は代々、守っているんだ…畑の近くにある土手を降りた場所にある小さな洞窟を。あそこには、悪い精霊…『妖精』が封じられているからね。


昔、私がまだ小さかった頃…父がそう言っていたのを頼りに畑を超え、土手を滑り降りた。


「おい…あっちだ!!生き残りが洞窟に…」


「ひひっ…撃て、撃っちまえ!!」


背中に衝撃が走り、痛みで動きが鈍っても…私は洞窟の中に入った。


中は外よりも冷えていて、蝋燭で道がぼんやりと照らされていた。その奥には、石の棺桶が見える。


「これで最後かぁ…どうするよ?」


「見てくれは悪くねえし、奴隷として飼ってやってもいいかもな?」


「…っ。」


入口付近から追って来た魔物の声が聞こえた私は、すぐに石の棺桶がある方に逃げる。


「洞窟…なあ、作戦の時の説明にあったか?」


「ひひっ…今はあの女を捕縛するのが先だろ。先遣隊の連中が、作戦無視して、全員皆殺しにしやがったからな。」


「それもそっか!ここの土地について、口を割らせた後は…」


「お楽しみタイムって奴だ。沸るねえ…っと!!」


石の棺桶の前に辿り着く寸前で、左足を射抜かれて、勢いよく転んだ。


「ひゅ〜ナイスショット。」


「ひひっ…言うな言うな。恥ずかしくなっちまう。」


「っ、痛い……痛い…けど。」


それでも私は諦めずに石の棺桶に手を伸ばし、体を無理やり立たせて、中を確認した。


いつか見た、王族の人が着ているような服を着ていて、見た目からでは男女の区別が出来ない、とても整った顔つきをした人が目を閉じて横たわっていた。首には七色の宝石がはめ込まれた首飾りがあって……


「はい、捕まえた。」


「きゃっ…」


長い黒髪を根っこから掴まれて、持ち上げられた。


「可愛らしい悲鳴あげるじゃん…ひひひ…ん?何だアレ?」


「さあな。でもその首飾り…高値で売れそうだ。」


「ひひっ、臨時報酬ゲットだ…」


瞬間…首飾りに手を伸ばした牛の魔物の左腕が消し飛んだ。


「う。うわぁぁぁぁ…!?!?俺、俺の右腕がぁぁーーーー!!!!!!」


「…なぁっ。」


横たわっていた人が、ゆっくりと体を起こすとルビーの様な色の瞳で私達を睨みつけた。


「ウゼエ、ダリィ…あ?その表情。このモード様に楯突く気か?」


右手に付着した牛の魔物の血を舐めて笑った。


「こ、このぉぉ!!!」


「待て、やめ…」


「あー死ね死ね。クソ雑魚共。久方ぶりの復活だし、特別に使ってやるよ。来やがれ…俺の憤怒。」



———カムラン



洞窟の上から、何かが落ちて来て…その衝撃で、私は意識を失った。


……


気がついたら、何故か受けた傷がなくなっていていて…岩から這い出た私は、焼けた村を巡って無惨に転がっている死体を集め、皆のお墓を作って泣いた。


家族も友人も、誰もいなくなって、私は独りぼっちになったと…そう思っていたから。


けど…いつの間にか、私の心の中に、妖精さん達がいた。



私を助けてくれた、ならず者気質なモード。


〔助けただぁ?このモード様が人間を?ハッ…別に、救うつもりはなかったからな!?出られる手段さえ見つかればこんな場所、すぐに出て行ってやる。〕



生真面目で、まとめ役のランロット。


[…ふ。そう言われると嬉しいな。君の心に居候している身として、これからも頑張るよ。]



私の事を気にかけてくれるリータン。


{っ…生身の肉体が手に入った暁には、我が752568人目の妻として、手厚く迎え入れよう…これは確約である。}



どんな時でも、芋を食べる事を優先しようとするガウェイ。


(美味しい芋が食べれさえすれば、この状態でもいい。さあ、早く食事にしようか!)



少し陰気だけど、ちゃんとしているパーシ。


《それさ、普通に失礼だよね。まあ……いいけど。》



いつも寝ているアーサー。


【…すぴぃ。ははっ…オルン。僕は…】



1人じゃない。どんな形であれ、たとえ種族が違えど、誰かが側にいてくれる。それだけで、生きててもいいって…思えるから。


「よし確認した。通れ…」


「ありがとうございます。」



{フン…その醜い顔を2度と我が妻に見せるな。これは命令である。}


(芋、飯、芋、飯…やっと、やっっと!我慢していた分、期待が膨らむな!!)



うん…お腹空いたし、何処か店を探そうか?



(その判断、感謝する!さあ、ベイクドポテトにフィッシュ&チップス…ポテトフライ…とにかく、腹に入れよう!!)


《年月とか考えて、『伝説の料理人』はとっくに死んでるだろうし、その辺…期待しない方がいいと思うけど。》


[いや…まずは、格安の宿を探す所からだろう。それと、現在持っている資金の事も考えてだな。服も見直さないといけないし…仕事も]


〔もしトラブっても、力で解決すりゃあいいだけだ。〕


[それで、村の近くにあった港町を吹き飛ばした事…もう忘れたか?]


《…とにかく早く休もう?ここまで来るまでの数日間、ずっと飲まず食わずだったから。そろそろ限界でしょ。》


「…そう、だね。」


私はふらついた足取りで宿に向かい、久方ぶりの食事を摂ってから…お風呂に入る気力もなく、ベットの上に転がって、泥の様に眠った。


……



翌朝。お風呂に入ってから、仕事を探す前に服を買おうと、宿から出ようとすると、宿屋を経営している人に呼び止められた。


「…君宛てだ。」


「えっ。」


高価そうな紙で書かれた内容を読んで、私は目を見開く。何せ海を超えた先にある大国…エデン王国の城に来いという内容だったから。


〔ふぅん。王国から直々の招待状ねぇ…良かったじゃねえか。〕


[いや、これは…]


《どう見ても罠…きっと、何かを企んでる。》


{我を通さずに、我が妻を誘う…誘うだと!?論外だ。諸君…エデン王国とやらに、鉄槌を下しに行こうじゃあないか。}


(美味しい芋があるのなら行こう。なければ…行きたくないな!ここの宿で出た焼き芋は、甘さが絶妙で、美味だった。正直…離れたくないっ!!)


【ぐぅ……どういう事だよ…オルン。僕達を集めて……むにゃむにゃ…】



わ、私は……



[こちらは、住まわせてもらっている身。ならば、やりたい方を選ぶ権利は彼女にある…なあリータン?]


{うっ…そ、それで我が妻が喜ぶのなら、任せよう。}


《大丈夫。もし、危険な目に遭いそうになったら、体を借りて全部根絶やしにするから。安心していいよ。》


(貴公は、我ら妖精の封印を解いた恩人なのだからな!お陰で、芋がまた食えた!!その分、力を貸すのが礼儀というもの。)


【ぐぅぅぅーーーーー】


〔さっさと決めろよ。ダリィなぁ…お前は、どうしたいんだ。〕


断りの手紙をエデン王国に送って、町で小さな幸せを享受するのは簡単だ。でも………そんなモノでは、足りない。


「……。」


そんなちっぽけな幸福では、あの時のトラウマを打ち消す事は出来ない…死ぬ間際で、絶対に後悔する。


失った分を取り戻し、差し引きゼロにした所で、無意味…それじゃ、報われない。


私の事を庇ってくれた両親に…死んでいった村の人達に誇れる人物になって、初めて私は報われる。その為にはもっと、もっと…登り詰めなければ。


「…行こう。」


(ここの焼き芋が食べれなくなるのは残念だが…これもまた縁。よし!まだ見ぬ、美味しい芋を探しに行こうか!)


〔おう!ちったぁ骨のある奴がいるといいな。〕


《分かった…危なくなったら、守るよ。》


【どうして、僕達を裏切って……Zzzz】


[そうか。なら従…]


{よくぞ言った!!!流石は我が妻。ならば、向かおう…我の事を無視した、傲岸不遜な王国へ。}


[リータン…こちらが、彼女に話している時に、大きな声で遮らないで欲しいんだが。]



…ふふっ。



不審がる宿屋の人を他所に、急いで私は部屋に戻って、荷物の整理を始めた。



1人ではなく…妖精さん達と一緒に。

                   了

                  






































































































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