妖精の囁き〜地球最後の日に宇宙船軍団がやって来た〜【三日月未来短編へ】

三日月未来(みかづきみらい)

地球最後の日

 夜神朝子は夢の中で夢を見ていた。

現実とは思えない不思議な夢から目覚めた朝子は時計を見る。

猫型の黄色のデジタルカレンダーは未来の日付と時刻を指していた。


 二千三十年四月十二日、午前六時だった。


 朝子には違和感が無かった。

部屋の白い壁紙も普段と変わらず猫の絵画の横にカレンダーがぶら下がっている。


 朝子は猫柄の羽毛布団を出て廊下に行くつもりだった。


 窓からは日向ぼっこのような柔らかな朝日がレースカーテン越しに差し込んでいる。

満開の桜に付いた朝露がキラキラと輝き眩しい。


 朝子は廊下の窓を大きく開けて何気なく空を見上げた。

大きな月が西の空に消えかかっている。

 火星が肉眼で見えるほどに大きく見えて目を擦る。


「ちょっと、火星さん、大き過ぎない」

朝子は呟く。


「朝子、逃げて。朝子、逃げて・・・・・・ 」


 不思議な声が朝子の鼓膜に残っていた。




「朝子起きて! 学校に遅れるわよ」


朝子の母の夕子の声が響いていた。


「今日、何日」

「月曜の三月三日じゃない」


「何年の」

「何、寝ぼけているの二十五年よ」


「そうよね。変な夢を見ていたの」

「あとで、聞くから朝食が先よ。トーストでいいわね。私はこれからロケの予定があるから急いでね」


 母の夕子は元アイドル歌手で今は女優をしていた。


 夕子が消えたあと、朝子は不思議な夢の声を思い出し、大きなため息を吐く。

母の声ではないアニメのような愛らしい子どもの声だった。



 朝子がトーストを口に入れていると声がした。

「テレビ付けて」


 朝子は霊感体質で内なる声に慣れていた。

「今の声は違う」

朝子は呟く。


 母の夕子がテレビを付けてひとり言を言っている。

「あら、チャンネルがおかしいわ」


 母の声を聞いた朝子が母の肩越しに液晶テレビの画面を覗く。

アニメのような妖精が映っていた。


「みんな、逃げて・・・・・・ 」


 妖精の声は夢と同じ声だった。



 この珍事件はSNSで拡散され世界中で話題になった。

 インターネットテレビキャスターが妖精事件を伝えて興奮している。


「次のニュースです。世界気象庁によりますと、月と火星の大接近が取り沙汰されています。現時点での衝突の可能性は不明です」




 朝子はテレビニュースを気にしながら団地の道路を歩いていた。


「朝子、おはよう」

「冬美、おはよう。今朝のニュース見た」


「知らないわ、何かしら」


 ちょっと大人っぽい冬美は朝子の女子高の同級生でピクシーカットの前髪を弄る癖があった。

朝子も冬美を真似てポニーテールの後ろ髪を弄っていた。


「月と火星の大接近よ」

「知らないわ。でも今朝、そんな夢を見ていたわ」


「冬美、私も同じ夢を見たの」

「妖精の声しなかった」


「したわよ。逃げてとか」


 二人は顔を見合わせて驚きを隠せない。


「放課後の帰り、神社にお参りしようよ」




 二人が神社の大鳥居をくぐると空気が張り詰めたようになり皮膚が痛い。

冬美が朝子に言う。


「ちょっとやばくない」


その時だった。


「みんな、逃げて」


 不思議な声を聞いた朝子が空間に呟く。


「あなた、誰なの」

「神さまの使い」


「神さまの使いって精霊ですか」

「妖精と呼ばれている」


「姿が見えないわ」


 朝子が言うと妖精が金色の光の中から姿を現した。

朝子が両手を差し出すと朝子の手のひらの上に妖精が立った。


「これから大変な事が起こる。みんな逃げて」

「わからないわ」


「銀河系から妖精が派遣される」

「どこに逃げるの」


「レスキュー宇宙船が派遣される。妖精の声を聞いた人間だけ助かる」


 妖精は二人に告げると光になって消えた。




 その夜、世界政府が臨時ニュースを伝えた。


「火星と月が五年後に衝突して大爆発します。人類生存の可能性は銀河系レスキュー宇宙船に掛かっています」


 ニュースは消えテレビ画面は砂嵐になった。

しばらくして画面が復活して妖精アニメが現れた。


「レスキュー宇宙船が皆さんを救います」


 妖精が言った言葉の下にテロップがあった。

テロップには選ばれた者だけ聞こえるとあった。




「朝子、臨時ニュース見た」

「レスキュー宇宙船ね」


「そうなの、でもーー このニュース拡散されてないのよ」

「見た人だけが選ばれた者だもの」




 それから五年後の二千三十年四月十二日夜。

火星が月より大きく見えていた。


 妖精の声に導かれた者はレスキュー宇宙船で地球を脱出した。


「太陽系を離れる・・・・・・ 」

 妖精が宇宙船内を泳ぎながら囁く。


「冬美、地球が光になってしまったわね」

「朝子、違うわ。あれは爆発した地球の光よ」


 数万のレスキュー宇宙船が第二の地球を目指して飛んでいる。


「宇宙人って、人間と同じ顔をしているのね」


 朝子が宇宙船のエンジニアに尋ねた。


「地球人は我々の先祖が住み着いた星なのです」

「それで助けてくれたの」


「我々レスキュー宇宙部隊は全宇宙を監視しています。あなた方を双子の地球にお連れします。その前に惑星型宇宙船も見学されますか、お嬢様」


 朝子と冬美は宇宙船の窓から数万の銀河系レスキュー宇宙船軍団を眺めていた。

巨大な宇宙船が銀河の星々に照らされ輝いている。


 惑星型宇宙船の入り口が開いて朝子たちを乗せた巨大宇宙船が着陸する。

人工とは思えない森林が酸素を排出して、自動車が宇宙船の空を飛んでいた。


「朝子、ここは妖精の住む精霊の森もあるわ。行く?」


 妖精は朝子の手のひらの上でキラキラと輝き微笑んでいた。


「妖精さんの森、行きたいわ」

「朝子は特別な私のアイドルよ。連れて行く」


「妖精さんもね」

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