火ともし頃――我現ずる。
くすのきさくら
我。待つ者。
茜色の空が満点の星空へと変わりゆく時。
時の止まった駅舎にあたたかな灯がともる。
「――」
オレンジ色の灯りの元で人影は姿を現し。
趣ある駅舎もその姿を現す。
人影が山にこだまする列車の走行音に耳を傾け――待望む。
主なる者の現れを――。
≠
深い緑の山の谷間にある小さな駅。
主要道路がなく。鉄道のみが移動手段だったとある集落があった。
しかし、数年前の大雨による災害で、集落の人々が移住せざる負えなくなり。駅も使われなくなり早数年。
今では各駅停車の列車すら止まらなくなったので人の声もなくなり。ひっそりとし。時の止まったままの駅舎は少しずつ朽ち始めている。
けれど、列車は止まらなくなってしまったが。駅のある路線は生きている。
そのため今でも1日に数回列車の走行音が山にこだまし。一時、駅を照らし人の声はないが賑わせている場所だ。
≠
「ねぇ聞いた噂?」
「噂?何の?」
「――オバケ」
「居るわけないじゃん」
「いやいや、今度はガチらしいよ。この後通過する――」
都市部と山間部を繋ぐローカル列車の駅。
いつも通りの時間が流れている。
今は学生の帰り時間。駅は日中より混雑している。
俺もそんな人々の中で1人帰りの列車を待っている。
まだ列車が来るまで少し時間があるので、無駄話をしようと思う。
俺は朝夕2往復しか走っていない路線を利用しているので、乗り遅れればその日は自主休校が決定し。登校出来ても帰りに乗り遅れれば帰宅困難となる。
そんなある意味恐ろしい路線を使い。俺は通学している普通の高校生。
普通の高校生なので特に名乗る必要もないだろう。
特に何か秘密を隠しているとかそんなことは一切ない。
本当に単なる普通の高校生だ。
ちなみに、どうしてそんな不便な場所に住んでいるのかと聞かれてもそれは家族に聞いてくれ。
ずっと守って来た土地だからとかで住んでいるらしい。
そりゃ自給自足の生活をするならとても良い場所だろう。
しかし学校に通うとなると話が変わって来る。
時間に超正確にならないと家に帰れなくなる。または学校の出席日数がみるみる減っていく。
とにかくある意味恐ろしい場所に俺は住んでいる。
ちなみに列車の本数が朝夕の2往復と言ったが。それは俺の家がある最寄り駅までの場合だ。
都市部から途中の駅まではそこそこ毎時間列車が走ってる。単に俺の住んでいるところ。路線の終点まで行く列車が朝夕の1日2往復しかないのだ。
なので先ほど大げさに言ったが。帰りも3駅ほど歩けば帰れなくもない(山越えが必要)。森の中で熊さんと出会う可能性もあるが。
とまあ熊さんと出会いたくあいため。俺は部活動にも入らず。
学校が終われば列車の発車時刻までは1時間以上あるのだが。いつも早めに駅に向かい。今のように列車を待っている。
1両編成の列車が駅に入って来ると初めのうちはそこそこの乗車率となる。
駅で早くから待っていた俺だが。基本いつも立ち席だ。
何故ならこの列車の車内高齢者率が高いから。というのもあるが。なんとなくドア付近にある立ち席専用みたいな場所が好きだからだ。
足元に荷物を置いて、壁にもたれそのまま外を見ながらボーっと終点まで乗っていく。
これが俺のいつもの日常。
少しすると列車が唸りながら動きだす。
はじめのうちはビルなどが車窓からも見えるが。次第に緑が多くなってきて住宅地を通過すると車内が空き始める。
それからさらに進むと山間を縫うように列車は走って行く。
季節にもよるが。今の時期はもう山間に列車が入るころにはあたりが薄暗くなってくる。
車内を見渡せばお婆ちゃんの集団が話していたり。俺と同じ学生もまだ乗っている。
この後列車はトンネルに入り。昔はあった集落の駅を通過し。再度トンネルに入つたあと。小さい町へと入る。日中はこの場所で列車は折り返しているが。その後さらに山の中を突き進むと俺の住んでいる小さな小さな集落へとたどり着く。
ぼーっと暗くなり出した外を見てると、ゴォーっという音と共に窓ガラスには俺の姿と車内が映る。そして時たまトンネル内のライトがシュッシュッと通過していく。
以前はトンネルに入ってもそれほど列車のスピードが速くならなかったが。
最近はトンネルとトンネルの間にあった駅を通過するため。ほぼ最高時速でトンネル内を列車は走っていると思う。
日常的に乗っていると、後どのくらいで1つ目のトンネルを抜けるのかが分かって来る。
自分の姿を見ていた俺は『今』と、頭の中で思ったとほぼ同時に列車は外に出る。
外は一気に暗くなっており。もう夜が始まる瞬間。
そんな時刻に廃駅になったところを列車が高速で通過し。またトンネルに入る。というのがここ最近のいつもの流れ。
「――」
「――――――へっ?」
流れなのだが――ボーっと外を見てた俺の目に一瞬オレンジ色の灯りが見えた気がした。
そして――誰かが駅に立っていたように見えたのだ。
慌てて俺は通過した廃駅の方を見ようとガラスに顔を近づけたが。すでに列車は次のトンネルに入り。轟音が耳に届いただけでもう何も見えなかった。
「――気のせいか?」
小声でつぶやきながら車内を見るが特に俺以外に先ほどの光景を見た者はいなかったらしく。いつも通りの車内だ。
しかし今もまだ俺の脳内には先ほどの一瞬。
特にオレンジ色の何か――と人影のようなものがはっきりと残っている。
「――俺は普通の高校生だからな――幽霊とか――見えんはずだぞ?」
ありえない事とわかってるが。
何故か頭の中に残り続ける先ほどの光景だった。
≠
「――」
轟音のち。
満点の星空へ空が変われば、我の姿はもう誰にも見えず。
あたたかな灯と共に去る。
――しかし、まだこの地は闇に包まれてはいない。
この地の復活を望む者よ。
火ともし頃。
我。この地にて目の黒き者現ることを待望む。
了
火ともし頃――我現ずる。 くすのきさくら @yu24meteora
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