【KAC20253】パパ上様日記 ~私が出会った妖精さん~

ともはっと

妖精さんとの出会いは、小学生の頃


独立国家富山王国の小学生は、宿泊学習という一泊二日の山奥を経験する。


かくいう私も、富山王国の出身として子供の頃その宿泊施設に泊まったことがあった。


キャンプもできる場所で、熊もいる。時にはスズメバチだって出たりする山奥にある自然村。

自然の家と銘打って、みんなで森林の中のキャンプ場で木々を拾ってきて飯盒を炊く。

出来上がったらカレーの具に混ぜ合わせて、大体そこでカレーの作り方を経験する子供たち。


冗談交じりに、上級生から教えられるは、


あの宿泊施設、昔死んだ人がいたんだぜ、とか。

森のどこかに、人形に釘打ちつけられてる呪いの人形があるんだぜ、とか。

森で行方不明になって帰ってこない人がいる、とか。

森の中で出会うんだ。見たことのないトリ。そのトリの降臨を、とか。


そんなこと。

下級生を怖がらせたくて仕方ない上級生たちの、悪い教えを叩きこまれての宿泊学習は、定番だ。




今にして思えば、その施設の誹謗中傷もいいところである。





宿泊施設についたら、さっそく始まるオリエンテーション。

山中を地図もって歩く。要所要所にクイズとスタンプが置いてあって、看板の文字を繋げていくと言葉が浮き上がってくるというレクリエーションに、子供ながらにみんなではしゃぐ。


5~6人の集団で地図に沿って歩いていく。

地図の見方を覚えるためのレクリエーションでもあるけども、時には熊と出会うことだってある。


私は熊に会うことはなかったが、別の集団が熊と出会ったようだ。

そんなこと起きれば、即座に中止。


だけど、私達にはその中止の連絡は届いていなかった。

なぜなら、絶賛迷子だったから。だから別の集団が熊と出会ったというのは後で知ったことである。

誰も襲われなくてよかった、なんて思った。


さて。その時迷子になっていた私達。

みんなで軽く迷子になって地図を見ていると、森林の木々の先に白い服を着た先生を見つけた。

白い服を着ている先生はとても森林の獣道の中で目立つ。どこかふんわりと幻想的な見た目をしているようにも思え、森にすむ妖精さんだと冗談交じりに遠目に見える先生を指差して笑ったりしていた。



先生がいる。つまり私たちは安全な場所にいるのだと思った。



先生に話を聞きに行こうと提案した同級生達で移動する。先生に近づいていくと、先生は私達に気づかなかったのか、すっと森林の奥へと消えていく。

追いかけると道の途中に看板が見えた。自分たちが探していたレクリエーションの看板だ。みんなでわいわいと騒ぎながら下り坂の山道を降りていく。

少し離れた段々の先に、先生は消えていく。道はある。道はあるけど遠回りだ。私達は子供である。ショートカットするに決まっている。


一人の少女が段々をジャンプして降りた。

少女が着地。


みんなも行こうとしたところで動きを止める。


ぐにりと、少女の足が沈んでいった。

どんどんと少女は沈んでいく。誰もがみんな固まった。


慌てて私はその子に手を差し伸べる。すでに膝まで埋まった少女は、必死に私の腕にしがみつく。

慌てた後続の同級生達も私の反対の腕を引っ張ったりして少女を救出。


みんなで息を荒くして何があったのか分からないまま放心状態。


少女の向こう、白い先生が消えていった奥を見る。そこに道はない。森に隠れて分からなかったがちょっと深い崖だった。

私達がみつけたオリエンテーション用の看板を見る。

それは古ぼけた看板。

どうやら昔使っていた看板のようだ。そこに書いてあった文字は



 『沼あり。この先道なし。立ち入り禁止』



怖くなって、底なし沼のようにずぶずぶと埋まっていった少女は涙が止まらなくて。

私達のオリエンテーションはそこで終了した。



熊と出会った別集団とは違って、私達も怖い思いを体験した。

だけどさすがは子供である。

集まってわいわいと話していれば、すぐにそんなことは忘れていく。



カレーを食べて。

皆でおっきな焚き木を囲んでキャンプファイヤー。

手を繋いでマイムマイムで踊りだす。

思春期真っ盛りな私達男子小学生は、ここぞとばかりに女子小学生の手をとって仲良く騒ぐ。

それこそ傍から見たら、妖精が舞っているかのように、幻想的だっただろう。




夜。

二段ベッドが四台。八人用のベッド。

七人みんながベッドを選ぶ。

選んだあとは部屋の真ん中で思い思いに床はベッドに座って腰かけて雑談タイム。


これこれこうだった。

レクリエーションは途中で終わったけど誰かゴールできたのか。

実は圧倒的速さでゴールしたやつらがいたらしい。

白い妖精さんをみたか? 見てるわけない。

幽霊じゃないかそれ。


なんて騒いで盛り上がる。

白い妖精さんについていって怖い思いをした同じ集団にいた数人だけが冗談じゃないと青い顔をする。



就寝。

今日は疲れた。

明日は帰る日。

今日とは違ったレクリエーションをするのか楽しみにしながら目を閉じる。



二段ベッドの二階で寝る私。


ふと、寝苦しくて目が覚めた。

真っ暗闇。

その中で寝苦しさ、というより、奥の二段ベッドの上階で眠る誰かの、うめき声のような声が聞こえた。


誰かがうなされているのか。

夜に他人のうなされ声というのは怖くて仕方がなかった。


隣の二段ベッドを見る。

真っ暗闇なので、そこに誰かが寝ているだろうとしか分からない。

実際、転落防止のためのガードがあるから誰かが寝ていても分からない。






そこに、白い靄があった。






誰かがいる。

それは当たり前だ。だってそこには同級生が寝ているのだから。


その靄は、人の顔をしている。

当たり前だ。

そこに同級生は寝ている。

だからその顔は同級生の顔なんだ。


白い。真っ暗の中に、白い人の顔。

そこに同級生はいるんだ。

あんな白い顔はしてないけど。



口が動いている。

明らかに何かを話している。

うめき声?

さっきから聞こえるうめき声かもしれない。

だけどその声は別のベッドからだ。


じゃあ、あそこの白い同級生は、だれ?



『あ の と き た す け な け れ ば

  あ の こ と い ら れ た の に』 



動かす口を読んだ。



にぃっと笑う。








妖精さんだ。






二段ベッドの下の同級生が立ち上がってすぐさま電気をつけた。


寝静まっていたみんながいきなり明るくなって体を起こした。

誰一人として深い眠りについていなかった。


だってみんな。


「あれ、なんだったんだよ……」


と、私が見ていた白い顔を、同じところに浮いているのを見ていたから。

誰もいない、その場所に。そこに浮いていた、白い顔を。










本当は、それは見てはいけないものだったんだろうと思う。

だけど私は、妖精さんだったんだと、信じている。



悪戯好きな妖精さん。

また会いたいとは思えないけど、また同じ宿泊施設に行ったら会えそうで。



二年後の宿泊学習。

トラブルがあって同じ宿泊先に向かわなくなって、よかった、なんて思った。



そんな私の、小さい頃に妖精さんを見た、思い出。

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【KAC20253】パパ上様日記 ~私が出会った妖精さん~ ともはっと @tomohut

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