妖精仕事

ヤマメさくら

第1話

   ① 妖精なんて、ようせんわ。


 最近はね、妖精になんて生まれて来なければよかったなって、よく思うのよ、ほんと。

 呼び出されて、こき使われてね。願いを叶えて系の頼みとかも面倒だけど、火の力寄越せとか、水の力寄越せとかね。あれ、もう、うんざり。他人の力に頼るなよなあって、口から出かかっちゃってるのよ、いつも。言わないけどね(笑)。言ったらケンカになるでしょ。敵、前にしてね、仲間割れしてたら、二人してお陀仏だからね。

 今度? 今度生まれ変わったら何になりたいかって? それ聞く? そりゃ、使われる方より、使う方でしょ。魔法使いとか、術師とかね。ああ、でも、あれかな。あっちもあっちで苦労多いみたいだからね。その立場にならないと分からないことって、ほんと、多いからね。あ。もしかしたら、生まれ変わるの、杖、とかがいいのかもなあ。うーん、でも、存在意義、薄くなっちゃうか。ほら、彼ら、結局仲介役でしょ? いらなくない? って、けっこう界隈じゃ言われてるのよ。ん? あはは、冗談冗談。そうそう、立場にならないと分からないことあるから。あー、自分で言ったことすぐ忘れちゃうんだよね、私(笑)。

 ええと、で、あなたは本当に妖精仕事やりたいんだよね? だったら、この紙に自分のできること書き込んで、いつも持ち歩いてくださいね。そうしたら、召喚されやすくなるから。でも、召喚も能力に応じてだからね。自分召喚されないなあってときは、大抵こっちの能力不足だから。そういうときは、自分で鍛錬して、火の精度上げるとか、水の精度上げるとか、まあ、努力しないとね。たまにね、自分の力が強大すぎて全然呼ばれない、召喚者の力不足~、なんてこともあるけど、そういうの、滅多にないから。自分もそれかも、なんて思わない方が身のためだよ。

 お。じゃあ、私そろそろ召喚かかりそうなんで、これで。ん? いえいえ、どういたしまして。経験を人に伝えることも大事だからね。うん、はい、じゃあ、頑張ってくださいね。


   ② 努力


 妖精ハローワークでためになる話を聞いた僕は、次の日から鍛錬に勤しんだ(その日から早速始めましたってならなかったのは、ちょっとだけ、落ち込んだから。何でか分からないけど、落ち込んだから。でも、寝たら治ったよ)。


   ③ 召喚


 時が来た。

 木の枝に座って、昼食の木の実を食べていたら、突然、声が聞こえて来たのだ。

 召喚されるときって、こうなのか。

 否応なしに、引っ張られる感覚。

 ああ、僕の初めての召喚。


『……に、おいてっ、降臨せよっ。トリの降臨!』


   ④ 小さな力


「え……。ちっさ。雀?」

 女の子が、僕を見るなり、言った。

 その子の手のひらの上で、僕は返事をした。ぴぴぴ。

「何言ってるか分かんないけど、返事かな? なんかできるなら、やってみてくれる?」

 ぴぴぴ。僕は、水と火の、最大級の能力を発揮した。

「多めの目薬と、マッチの火って感じだね」

 ぴ……。ごめんなさい。こんな僕でごめんなさい。召喚者の力不足じゃないことは分かってる。女の子の後ろには、龍と白虎が控えている。なんで僕なんかが召喚されてしまったんだろう。

 女の子も、不思議そうな顔で僕を見る。

「なんで君が来たんだろうね? 本当は鳳凰を召喚するつもりだったんだけど、ちょっと疲れちゃって。呪文を唱えてるとき、安らぎがほしいなあって、ふと思っちゃったんだ。そのせいかな?」

 女の子の周りには、無数の屍が転がっている。それは人間じゃない。妖精でもない。話に聞いたことがある、きっと鬼ってやつだ。

 女の子は、顔色が青く、血まみれだ。

 血は敵のものだけでなく、自身のものでもあるのだろう。

 女の子は、もう死ぬ。

 僕にだって、分かる。

 女の子の周りには、まだ無数の異形の鬼がいる。

「なんか、来てくれて、ありがとね」

 女の子はほほ笑んで言うと、僕の頭のてっぺんを、右手の人差し指でそっと撫でた。



 召喚者が死ぬと、命がまだある場合、僕らは妖精界に戻る。


   ⑤ いつかのために


「よう、精が出るね、妖精だけにってね(笑)。まあ、頑張ってね。じゃ」

 通りがかったハローワークの人が、声をかけて来た。去って行くその背中に、三十秒間の火を吹き終わった僕は、頑張りまーす、と叫んだ。


 僕は毎日、妖精界で、鍛錬に勤しんでいる。

 また、いつか、呼ばれるときのために。

 今度こそ、懐で守られることなく、誰かの力になれるように。


              終わり

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