真面目な学級委員長は、私の前だけ妖精さんになる
川野マグロ(マグローK)
みんなは知らない学級委員長の秘密
行き過ぎた文武両道なこともあって、1人でなんでもこなしてしまうために何人たりとも寄せ付けない。
そんな彼女は学校中で知られる有名人でもある。
現に、黒髪メガネで三つ編みと言えば、校内にいるどこの誰を捕まえても「夕闇琥珀」の名前が出てくることだろう。
もはや、黒髪メガネで三つ編みという属性を夕闇琥珀が生み出したのではないかと勘違いするほど、その姿がピッタリと合っている。
たとえ、古めかしいような印象を受ける格好をしていても夕闇琥珀が装えば絵になるのだ。
彼女は成績だけでなくスタイルも顔もいい。
どこまで行っても他人の存在を必要としていないように見えるのが、夕闇琥珀なのだ。
対して、そんな夕闇琥珀のことを語るあたしは誰なのかと言えば、どこにでもいるただの平凡な女子高生だ。
名前を
多分、クラスの半分も名前を覚えていないだろう。
髪色が緑なことも今の世界じゃ没個性だ。
唯一の取り柄としてはヘラヘラして笑顔を絶やさないこと。
それ以外は普通だ。決して低過ぎず、とても高いとは言えない成績の平々凡々な配信時にフルフェイスマスクをかぶるだけの変質者だ。
こんなあたしたちだが、何もただのクラスメイトって訳じゃない。
あたしたち2人には、学校の誰も知らない秘密がある。
「沼野さん。終わりました」
夕暮れの教室で、ぼーっと琥珀ちゃんの姿を眺めていたところで、その琥珀ちゃんが振り返ってきた。
「お、いーんちょーやーっと終わったの? 今日は珍しく遅かったねぇ」
わざとらしくニヤニヤ笑いながら言うと、琥珀ちゃんはあからさまにムッとした。
「あなたが手伝ってくだされば、あと10分は早く終えられました」
「へーへー。お世辞でしょー?」
「そうです」
表情を変えることなく言う琥珀ちゃんはやっぱりあたしにゃ手厳しい。
「ま、いーけどねー。あたしはいーんちょーが作業している姿がこの上なく好きだから。いっつも言ってるでしょー?」
「全く……戯言ばかり言ってないで行きますよ」
「照れたねぇ?」
軽口を叩いたらギロっとにらまれた。
でも、あたし以外には決してしない怒りを滲ませたその顔にゾクゾクしちゃう。
「いい加減にしないと縁を切るぞ?」
「ごめんって。やめて。ねーそれだけはやめてー」
「さっさと行きますよ」
「行くからー。ねー無視しないでー」
あたしがコアラの子どものようにしがみつくも、そんなあたしを気にも止めずに琥珀ちゃんはずんずんと歩くのをやめなかった。
結局最後までおんぶされたままやってきたのは、いつもあたしたちが溜まり場にさせてもらっているダンジョンだ。
あたしたちの世界じゃ、昔からダンジョンと呼ばれる不思議な不思議な空間がある。
そこでは、モンスターと呼ばれる凶暴な生き物がいたり、特殊な効果があるマジックアイテムがあったり、特殊能力スキルが使えるようになったりする。
要はファンタジー空間だ。
「さて、ここにきたからにはフルフェイスになりますか」
あたしはいーんちょーに振り下ろされながらスキルによってどこからともなくマスクを取り出した。
それからすぐに配信機材も用意する。
「いつも気になっていたのだけど、どうしてそれをかぶっちゃうの?」
「そりゃ、いーんちょーの華を際立たせるためだって」
「際立つの? 怪しさしか増さないと思うのだけど」
「際立ってんじゃん。伸びてるしー。それよりほら、早く見せて。いつもの」
「わかってるわよ」
投げやりな感じで、琥珀ちゃんはメガネ、というよりメガネ型の枷を外して、三つ編みを解いた。
すると、瞳の色は夜の空みたいな黒から澄んだ海みたいな青へと変わり、濡れたような黒髪はキラキラと輝く金髪へと変わった。
さらに背中からは透明な二対の羽が生えている。
そう、これがあたしたちの秘密。
コハクちゃんだ。
普段は決して見られないかわいらしい笑顔でコハクちゃんは瞳を輝かせている。
この姿を見ると胸が高鳴って、ドクドクと心臓の音がうるさくなる。
「さ、いくよ」
あたしはマスクと一緒に用意した配信機材で配信を始めた。
「あなたに掘られた煌めく琥珀! はーい! コハクチャンネルへようこそー! コハクでーす」
真面目な学級委員長は、私の前だけ妖精さんになる 川野マグロ(マグローK) @magurok
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