あきほとトリの大冒険 ~新しい仲間と新しい敵~

にゃべ♪

共闘のお誘い

 瀬戸内海に面した地方都市、舞鷹市。この街の北中学に河野あきほは通っている。そんな彼女は魔導書から呼び出した謎の精霊『トリ』と契約。その変化に戸惑っていた。


「読める! 読めるぞ!」


 そう、今まで全然読む事が出来なかった魔導書の文字がスラスラと読めるようになっていたのだ。読めるようになって、ますます魔導書にのめり込む日々が続く。

 魔導書には魔法哲学や魔法の原理、魔法の歴史や魔導書を巡る宿命なども記載されていた。内容も後半になるにつれてどんどん難解になり、彼女は頭を抱える。


「ああ~難しいい」

「当然ホ。魔法使いは1日にしてならずホ」


 あきほは魔導書の理解を深めるためにトリを呼び出していた。安易なトリの降臨は控えた方がいいと言う考えは捨て、今では積極的に彼を頼っている。何故なら、敵対する存在が現れたからだ。

 敵はいつ襲ってくるか分からない。なので、もう無駄な時間は過ごせなかった。その敵について、関連がありそうなページを開いた彼女は軽く愚痴をこぼす。


「魔導書は5冊あって、互いに牽制しあってバランスが取れてたんじゃないの?」

「そのはずだけど、何かがあったホね」

「この間襲ってきたあの子ともう一度会えれば何か分かるかもだけど、難しいよねえ」

「でもきっとまた会えるホ。その時に色々聞けばいいホ」


 そんなやり取りをトリと交わした翌日、学校に登校したあきほのクラスに転校生がくると言う話が広がっていた。もうすぐ3学期が終わると言うこのタイミングでの転校生は珍しい。

 しかも、都合良くあきほの隣の席に空席が出来ていた。


「え? 転校生って私の隣確定なん?」

「やったじゃん。仲良くしなきゃだね」

「話の合う子ならいいけど……」

「きっとイケメンじゃない? いいなぁ」


 クラスメイトと他愛もない雑談をしているとホームルームが始まり、噂の転校生もやってくる。その正体を目にしたあきほは言葉を失った。


「菊原マミです。よろしくお願いします」


 転校生はあの時の白魔法少女だったのだ。彼女、マミは両親の都合でこの街に引っ越してきたらしい。ただ、その正体を知っているあきほには、その理由が嘘のように思えてならなかった。

 隣の席に座ったマミは顔を横に向けると、軽く会釈をする。


「よろしく。河野あきほさん」

「私まだ自己紹介してないんだけど」

「だって、私達もう会ってるでしょう?」


 マミは薄っすらと含みのある笑みをと浮かべ、あきほを挑発した。他のクラスメイトの前で事を荒立てたくなかったあきほは、こそりと小声で話しかける。


「後で話をしたいんだけど、いい?」

「いいよ。トイレでも校舎裏でも」


 話し合った結果、2人は昼休みに屋上に向かう。普段は鍵がかかって入れないその場所も、マミの解錠魔法であっさりとドアは開いた。

 あきほはその手際の良さに感心しつつ、先行する彼女の後に続く。


「今日天気が良くて良かったね」

「じゃあ、話をしよっか。何が知りたい?」

「あなたの正体は何? これからも襲ってくるつもり?」

「私はナーロンに選ばれた魔法少女。仲間を探してたの。まだ染まっていない真っ白な仲間をね」


 マミいわく、発端は5冊の魔導書の契約者の1人の暴走。彼女が本来絶妙なバランスで成り立っていた5冊の魔導書の契約者同士の関係を崩したのだ。その首謀者の名前は岡本伊予媛。圧倒的な魔力を持った彼女は、魔導書の契約者2人を傘下に収める。

 マミは伊予媛の野望を阻止するため、残りの1人の契約者を探していた――。


「ちょっと待って! じゃあなんで初めて会った時に殺意マシマシだったの?」

「あきほの実力と、伊予媛の仲間になっていないかを確かめるためだった。ごめんね」

「で、私はお眼鏡にかなったって訳か」

「お願い。協力して!」


 マミは両手を合わせて懇願する。初対面の時とまるっきり違う対応にあきほは戸惑うものの、誠意は伝わってきた。果たして彼女の話は本当なのか。信じてもいいのか――。

 あきほの中でこの問題への対応について葛藤が始まる。


「結論を出す前に、その伊予媛って何がしたいの?」

「魔導書の力を全て自分の物にして、好き勝手に使う事かな。それを達成してしまえば彼女は世界征服だって出来るかも」

「お~っと、媛の悪口はそこまでにしてもらうよ!」


 突然2人の会話に乱入してきたのは黄色いヒラヒラミニスカ衣装に身を包んだ魔法少女。その口ぶりからして、伊予媛の傘下に下った女子の1人なのだろう。彼女は天パのショートカットで褐色の肌。しかも健康的なスタイルで、見るからに陽キャっぽかった。最初から魔法少女衣装と言う事は、敵対者を倒しに現れたと言う事なのだろう。

 黄色魔法少女の姿を目にしたマミは、すぐに敵の名前を叫ぶ。


「早速来たわね、奥村ほなみ! ナーロン、変身お願い!」

「分かったニョロ!」

「こっちも! トリ、おいでませっ!」

「呼んだかかホー!」


 あきほがトリを呼んだのを目の当たりにした黄色魔法少女、ほなみは目を丸くした。


「まさか、本当にトリの降臨を見る事が出来るだなんて……あなたすごいわね! 最後の魔導書は誰も契約出来ないって話だったのにどうやったの?」

「え? 魔法陣見たら言葉が降りてきただけだけど?」

「なんだ、天然の天才か。あたし、天才嫌いなんだよね」


 トリ降臨の経緯を説明したところで、ほなみの表情は急変する。どうやら、特に努力もせずに契約精霊を呼び出せた事が彼女の逆鱗に触れたらしい。

 ヤバい気配をビンビンに感じ取ったあきほは、すぐに変身する。


「へ、へんしーん!」


 正式に契約した事で、あきほは念じるだけで変身出来るようになった。思うだけでも発動出来るものの、やっぱり口に出してしまう。癖になってしまっているのだろう。

 そして、今回もまたその手にステッキはなかった。


「何でやっぱりステッキが出ないのよー!」

「それより前に集中するホ! 何をしてくるか分からんホ!」


 トリの忠告にあきほは改めて前を向く。マミも変身を終えていて白黒の魔法少女が黄色魔法少女を迎え撃つ形になっていた。2対1の状況においてなお、ほなみの表情は崩れない。


「へぇ、あんたはヘビの方につくんだ。じゃあ、容赦しないから!」


 ほなみは持っていたステッキを頭上に上げる。それを合図に、巨大な赤い半透明のオオサンショウウオのような妖精が現れた。妖精は大きな口をガバリと開けたかと思うと、いきなりあきほとマミに向かって覆いかぶさってくる。それが余りに一瞬の出来事だったため、2人は為す術もなく飲み込まれてしまった。

 一部始終を見届けたほなみは、呼び出した妖精の体を愛情を込めて優しくなでる。


「よ~しよしよし。よく頑張ったね。じゃあ、このまま媛の所に戻ろうか」


 どうやらこの妖精は2人を食べるために飲み込んだのではないようだ。ほなみが敵対する魔法少女を自分達のボスのもとに連れて行くための手段で呼び出したらしい。初手からそんな行動に出たと言う事は、彼女の魔法は妖精召喚に特化しているのだろう。

 一方、飲み込まれた2人は消化器官の中ではなく、周囲がサイケデリックな色で満たされた謎の空間をふわふわと漂っていた。あきほはこの展開に困惑する。


「消化されなくて良かったけど、妖精のお腹の中ってどうなってんの?」

「これがあいつの魔法だよ。いきなり強硬手段に出るとは思わなかった」

「マミは彼女の事を知ってんの?」

「伊予媛の仲間は全員知ってる。今までも戦ってきたもの。でも、いきなり大技を使ってきたのは初めて。あいつらも焦ってんのね」


 マミいわく、5冊の魔導書の中でも、トリの契約者が鍵を握っているのだとか。つまり、あきほがどちら陣営につくかでこの戦いは決着がつくとも言えるらしい。

 最初から両陣営に目をつけられていたと知って、あきほは複雑な気持ちになる。


「私の知らないところでとんでもない事になってたんだ。そんなの望んでないのに」

「まずはここから出る事が先決だホ!」


 一緒に飲み込まれていたトリが急かす。マミの方のナーロンも飲み込まれていた。


「マミ、魔弾攻撃ニョロ!」

「分かってる!」


 マミはステッキをかざして魔弾を連射。しかしその攻撃は謎空間に飲み込まれて無効化される。彼女はあらゆる方向に向けて魔弾を撃ちまくるものの、全く反応は返ってこなかった。

 それでもムキになって撃ちまくるマミを、あきほは手を伸ばして止める。


「その攻撃は通じないみたいだよ。魔力の無駄になるからやめよ」

「で、でも……」

「もしかして、その魔法しか使えないの?」

「ごめん。魔導書にはその先の魔法も書かれてあるんだけど」


 マミの得意魔法は対象者の能力の底上げをすると言うもの。攻撃魔法はあまり得意ではないらしい。彼女の持つ魔導書にはもっと強い攻撃魔法も記載されているものの、まだ使いこなせないのだとか。

 この話を聞いたあきほとトリは、お互いにうなずき合う。


「マミ、その得意魔法を私にかけて!」

「え? いいけど」


 マミはステッキをいきなりあきほの腕に押し付けた。これがバフ魔法の作法らしい。直接肌に接触させて魔法を注入するのだとか。この注射のようなやりかたにあきほはビビる。


「ちょ、マジでそうやんの?」

「嫌ならやめようか?」


 マミは少し挑発的な笑みであきほの顔を見つめた。実際、あきほの物理的なアタックなら、現時点でもこの空間にダメージを与える事は出来るかも知れない。ただ、それが確実だと言える確証もどこにもなかった。

 バフ魔法の独特のスタイルに戸惑う彼女に、トリからのツッコミが入る。


「何やってるホ! 協力してここから脱出するホよ!」

「わ、分かったよ! じゃあマミ、痛くしないでね」

「多分痛くはないと思う。じゃあ、行くね」


 許可が出たので、マミは早速得意魔法を行使する。ステッキをあきほの腕に押し付け、まぶたを閉じて静かに息を吸い込んだ。


「マジカルバフ!」

「うわあああああ!」


 呪文と同時にあきほの体内にマミからの魔力が流れ込み、強烈な快感が体中を駆け巡った。そのエネルギーは彼女がまだ会得していない魔力の奥義に通じる部分を刺激して、強制的に開放させる。

 その効果により、あきほはかつてない万能感に満たされた。


「パワー全開! あきほキーック!」


 彼女は何にもない空間を蹴って思いっきりキックをぶちかます。黒魔法少女のキックはそのまま流星と化して、光の早さでどこまでも真っすぐ飛んでいった。

 キックと同時に一瞬であきほの姿が見えなくなったので、マミは途方に暮れる。


「嘘? 虚空に飲まれちゃった?」

「いや、あきほはやるホ。あの子を信じるホ」

「実際、他に何も出来ないニョロしね」


 1人の魔法少女と2体の契約精霊が朗報を固唾を飲んで待つ中、突然空間に亀裂が入った。そうして、ガラスが割れるみたいにボロボとと崩れ始め、代わりに強烈な光が差し込んでくる。

 マミ達は、そのまぶしさに反射的にまぶたを閉じた。


「わあっまぶしっ!」


 彼女がまたまぶたを上げた時、視界に入ってきたのは巨大な赤い妖精が倒れている姿。その近くには、パンパンと手についたホコリを落とす仕草をするあきほの姿があった。


「倒してみると呆気なかったな」

「あきほ!」

「マミ、もうちょっと待っててね」


 あきほは、近付こうとするマミに向かって手を伸ばして止める。そうして、妖精が倒れた事に動揺して動けないでいたほなみの目の前に秒で移動。その黄色い魔法少女衣装の腹部に向かけて自慢の拳をめり込ませた。


「私達を舐めるなーッ!」

「きゃああーっ!」


 あきほの一撃を受けたほなみは、ひゅーんと空の彼方まで飛んでいく。こうして、バトルはあきほ達の勝利に終わった。

 全てが終わった後、あきほは魔法少女衣装のままくるりと振り返る。


「マミ、これからよろしくね」

「共闘成立だね。こちらこそよろそく」



 その頃、あきほ達のバトルをモニター越しに眺めていた少女の影が2つ。


「ほなみがやられたね」

「あの子は私らの中では最弱……。これでトリの契約者の実力も分かったわ」


 やはり、まだまだ油断は禁物のようだ。負けるなあきほ。伊予媛の野望を止められるのは君しかいない!

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あきほとトリの大冒険 ~新しい仲間と新しい敵~ にゃべ♪ @nyabech2016

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