【KAC20253】JKくんと、ようせいさん。【単話】

❄️風宮 翠霞❄️

JKくんと、ようせいさん。

「ん〜……ふふふん、な〜、なな〜……」


『JKくんJKくん』


 狗耀くよう高校/第一校舎所属・2年生。

 通っているのが特殊な学校であるが故に、肩書きもそんな風に随分と変わったものになっている16歳の少女、鬼灯ほおずき由羅ゆら


「ゆらっち」、あるいは「JKくん」こと私は、第一校舎の図書館で読書をしている最中に足下から聴こえた声に、鼻歌をピタリと止めた。


「なんだい、ようせいさん?」


 そして、そう返事をしながら……。

 足下で私の制服に毛を擦り付けていた、ふわふわした白い塊を抱えて古い机の上へと載せる。


『キミが読んでいるその本の呪詛は危ないヤツで、ザコちゃん達がよって来てるから〜、キミを守るために来たんだよんっ。ほめてほめて?』


 彼、あるいは彼女は、第一校舎こと旧校舎。

 現在は限られた生徒しか使えないこの場所に存在する、全ての人外を統べる可愛い王者––––の、従者。

 妖精ようせいさんだ。


 ようせいさんは、正確にはではなくあやかしの類いらしいけど。

 それでも、昔絵本で読んだ妖精のように可愛らしいその姿に私は「ようせいさん」と呼び……ようせいさんもその呼び名を受け入れた。


 そして、事情があって男装をしているJK女子高生である私を気に入ったのか、ようせいさんの主な縄張りである図書館に来る度に……こうして話をしにくる。


 全く……本来ようせいさんは、主人である––––と同じで強大な力を持つが故に滅多にすがたを現さない、レアな存在であるはずなのに。


『ほっめて〜? んもう、JKくんボクをほめて〜。あるじは最近、お気に入りの子と遊んでるんだもん……たのしくない〜!!』


 机の上でコロコロと転がりながら「褒めろ〜!!」と赤い小さな目を見開いて短い手足をバタバタさせるその姿を見ていると、ただただ可愛い近所の子猫を見ている気分にさせられる。


「はいはい、えらいよ。ようせいさんのおかげで、すごく助かってる。ありがとう、ようせいさん」


『んへへ〜!! JKくんは少しあるじと気配が似てるから、ザコにも狙われやすいけど〜、ちゃんとボクが守ってあげる〜』


 パァッと周りの空気を文字通り輝かせて満足げに笑うようせいさんを撫でながら、私は危険だと言われた本を閉じて本棚に戻した。


 この本をオススメしてきた奴は、実家の差し金だろうから後日しなければ……と、ため息を吐いてそう思いながら。


 処分、処分……。


 ––––《由羅、これすげぇオススメだぜ!!》


 脳内に蘇った、数少ない“友人”の声に……そっと蓋をする。


「……性別を偽り、力を偽り、事実を隠し、瞳を失い、家族を失った。これ以上、何を隠し騙し失えばいいんだろうな」


 それでも。

 その隙間から漏れ出てしまった喪失感に任せて……。

 子猫しか素直に話せる相手がいない、隣の家の不良少年のように。

 私は、手のひらに伝わるもふもふとした毛の感覚と、人ではないものの冷たい温度を感じながら……小さく呟き、そっと席を立った。


『JKくん?』


 こてん。

 と首を傾げるようせいさんに、扉のところで振り返って手を振る。


「ようせいさん、ありがとうね。今日はもう帰るよ」


 そう一方的に告げて、少し迷ったようにフワッと体を一瞬膨らませたようせいさんから目を逸らすようにして……。


 視界の端に写る、交渉に使えるからと伸ばした白い髪。

 苦しむ原因であるそれを、心底忌々しいと思いながら……狭い視界でもスタスタと歩けるほどに慣れた廊下を、暗い気分で歩いた。


 ━✧━・・・・━✧━・・・・━✧━・・・・━✧━・・・・━✧━


『あ〜ぁ、いっちゃった〜』


 ボクは、いつもより早足で去って行く気配に呟いて机の上からトンッと退いた。

 あの子がいないなら、「可愛い妖精さん」を“演じている”理由はない。


『お前らのせいじゃねぇか……ザコが、ボクの邪魔してんじゃねぇよ』


 ボクに関する七不思議の“噂”はほとんど消えていて、今は主人のおかげで存在しているから……そのおかげで、随分と可愛い姿を手に入れることができた。

 今のボクは、確かに可愛らしい見た目をしているのだろう。


 だが……見た目が可愛く、声が可愛く、話し方が可愛いからと言って。

 弱いとは思わない方がいい。


 元七不思議で、強すぎるが故に殿堂入りまでしたボクの【お気に入り】に手を出そうとした、七不思議にもなれない程度のザコに……そう言って嗤いかけた。


 ボクの大事な主人と同じ白髪で、右目を失い眼帯をしている青色の目の少女。

 別に主人と同じ色だからという理由で気に入っている訳じゃないが、あの子はボクのお気に入りなんだ。


 印の為の数字も付けてるから、いくらバカでもわかるだろう?


 それなのに手を出そうとしたなら……ボクに喧嘩を打ったも、同然だった。

 王の右腕である、ボクに。

 唯一王のそばに立てるくらいの力を持つ、ボクに。


『逃げるなよ、ザコ。……いただきま〜す』


 その覚悟がないなら、あの子に近寄ってはいけなかったんだ。


 ––––《……性別を偽り、力を偽り、事実を隠し、瞳を失い、家族を失った。これ以上、何を隠し騙し失えばいいんだろうな》


 苦しそうな顔でそう呟いた少女が、唯一安心できる場所がこの図書館だ。

 だから。

 だから……この場所を縄張りとして管理するボクは、彼女がまた安心してこの場所を使えるようにをする。


『んぐ、ごちそ〜さまでした。……みな、わかったな? もう二度と。絶対に、あの子の安息を、邪魔するなよ』


 逃げようとする黒いモヤのような形しか取れない小物を、ボクは膨らませた体でパックリと飲み込んで……ごくりと音を鳴らした。


 そして、図書館のあちこちでザワリと揺らいだ気配達に忠告し……彼女が来たのを知るまでにしていたように、一番奥の本棚の隙間に白く小さな身を潜ませて。


 また、眠りに着いた。


 明日も来るであろう彼女と、何を話すかを楽しみにしながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20253】JKくんと、ようせいさん。【単話】 ❄️風宮 翠霞❄️ @7320

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ