彼女の重さすら、私は。
うびぞお
とまれ彼女は映画を語るKAC20252
「綺麗」
わたしが化粧をしている後ろを通りかかった彼女が言う。
「メイクしてれば、てこと?」
そう尋ねると彼女が笑う。
「しててもしてなくても素敵ですよ。あなたの外見には憧れます」
あら照れちゃう、なんて思いつつも引っ掛かりを感じた。
「見た目だけ?」
「ははは、あなたと比べたら私なんか顔も体も平面ですから、憧れずにはいられませんよ」
そんな言い方は外側だけ好きって言われているみたいでなんだか嬉しくない。
「じゃ、あこがれ、の出てくるホラー映画は?憧れるホラーじゃなくて」
ホラー映画はなんでもありと言っていた彼女だけど、先日ひなまつりの映画がないと嘆いていた。それを思い出して喧嘩を売ってみる。
「ありますよ」
即答だった。
その夜、二人でテレビの前に座ると彼女がリモコンを操作した。
タイトルは鳥の名を冠した湖。
「これ、またトリの降臨があるの?」
「ありません!
湖のそばの避暑地を家族と訪れていた14歳の少年が、母の友人の娘である17歳の少女に惹かれ、大人と子供という時間の間で翻弄される。いわゆる一夏の恋的なボーイ・ミーツ・ガールの映画。イケてないエロガキが発情期の娘に恋をして脱童貞に漕ぎ着ける、ていう頭悪い感じのB級恋愛映画かと思った。が。
にしては時々妙におどろおどろしい死や幽霊を仄めかすカットが入る。十代は、生きることそのものである性愛に惹かれる一方で、絶望的な現実から死へと逃避することにも
ところがラスト。少年はセックスよりも少女のそばにいることを選んだ。少年のまま、永遠に。
その時、この映画が青春映画ではなくホラーだとようやく気付いた。
怖くはない。むしろ、切ない。
エンドロールを眺めながら、わたしの隣に座っている彼女がつぶやいた。
「私、あなたの女らしい綺麗な外見には憧れてます。でも、あなたそのものには『憧れ』なんて生優しい言葉ではない感情があって、あなたと一緒にいたいんです。主人公のように」
カッと体が熱くなる。
彼女は時々重すぎる。
でも、私はその重さに憧れている。
★☆
ネタにした映画『ファルコン・レイク』
彼女の重さすら、私は。 うびぞお @ubiubiubi
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