超超超超超イケメンの卒業式

無月兄(無月夢)

第1話

 三月といえば卒業のシーズン。俺も今日、三年間通った高校を卒業する。


 卒業式では、卒業生在校生を問わず、たくさんのすすり泣く声が聞こえる。

 そんな中、在校生代表の女子生徒から、祝福の言葉が読み上げられていた。


「三年生の先輩方。卒業おめでとうございます」


 その言葉で、送辞も終わり。と思いきや、そこからさらにもう少しだけ続く。


「そして、池野いけの先輩。卒業、本当に本当にほんとーに、おめでとうございます! 先輩と同じ学校に通えて、幸せでした!」


 在校生代表の女子生徒。全卒業生に贈る言葉であるにも関わらず、明らかに一人だけ特別扱い。

 だが、事態はそれだけでは収まらない。

 在校生も卒業生も関係なく、会場の至る所から声が上がる。主に、女子生徒の声だ。


「私も、池野くんと同じ学校で嬉しかった!」

「でも、もう池野くんと会えなくなるのは寂しいーっ!」

「いかないで、池野先輩!」


 女子生徒は皆、口々に一人の名を口にし、別れを惜しんでいる。

 そんな女子生徒たちの視線の先にいるのは、俺。

 …………ではなく、その隣に立っている一人の超絶イケメンだ。



「池野。卒業式でも凄い人気だな」

「まいったな。全員が主役の卒業式なのに、なんかごめん」



 彼の名は、池野面太郎。

 高校三年間、俺とつるんでいた友人だが、奴を一言で表すと、超絶イケメンだ。



 いや。超絶イケメンなんて言葉じゃまだ足りないかもしれない。

 作者の文章力では到底表せられないくらいの超超超超超イケメン。

 その類まれなる容姿により、この学校のほとんどの女子生徒、一部の男子生徒、それに先生までもを虜にしている、イケメンの化身だ。

 

 そのあまりのイケメンぶりにより、作った伝説は数知れない。

 曰く。いくつものモデル事務所が彼を巡って取っ組み合いの大喧嘩を起こした。

 曰く。あまりの美しさに、人間国宝に指定されている。

 曰く。車椅子生活を余儀なくされていた少女が、池面の姿を見たとたん彼の元へ全力疾走した。



 ここまでくると、どれが本当でどれが嘘か、友人の俺にもさっぱりわからない。とにかく奴は、それくらい異次元なレベルでのイケメンってわけだ。



 そんなコイツが卒業しこの学校を去るのだから、憧れている面々のショックは計り知れない。というわけで、この騒ぎだ。



 ちなみに先生たちも、ファンのヤツらがこうなるともう止められないとわかっているので、注意やおとがめはなし。

 そもそも校長がファンクラブ四天王の一人で、涙を流しながら自作の応援うちわを降っているんだから、注意しても説得力がない。



 こうして、卒業式という名の池野面太郎お別れ会は終了した。

 だが、騒ぎはまだ終わらない。卒業式は、家に帰るまでが卒業式だ。



 卒業式の後、教室に戻ってからの最後のホームルームも終わり、あとは家に帰るだけ。

 なのだが、現在この教室は、他のクラスからやってきた大量の女子生徒によって囲まれていた。



「池野くん! 学ランの第二ボタンをください! それがダメなら第三ボタンでもいいです!」

「頂けたら、これからの人生の生きる希望になるます、」

「家宝にして一生大事にするから、どうかお願いします!」



 卒業式の定番。憧れの相手から、制服の第二ボタンをもらうというやつ。

 当然、池野のボタンがほしいという奴は山ほどいる。

 池野と会えるのは今日が最後ということもあって、みんなギラギラと目を光らせ、殺気立っていた。



 そして、それを見た我がクラスの男子は、揃いも揃って震え上がっていた。



「お、おい、池野。さっさとボタン渡せ。あいつら怖えよ!」

「けどよ、うちの学校の制服には、ボタンは五つしかついてない。全然足りねえぞ」

「もし、もらえないってなったら、暴動が起きるんじゃないか?」



 暴動が起きたのを想像したのか、男子たちからヒィィィッ!と悲鳴があがる。



 一方、同じクラスの女子たちは、外に集まった奴らと同じく、池野のボタンを掴みかかりそうな勢いで狙っていた。



 そんな中、俺と池野は、顔を見合わせる。



「やっぱりこうなったか。予想通りだな」

「ああ。悪いけど、前に頼んでおいたこと、やってくれる?」

「仕方ない。任せろ」



 実は、こんなことになるのは事前に予想がついていた。

 そして、対策を立てていた。



 まずは俺が、声を張り上げ女子達に向かって叫ぶ。



「お前たち、聞けーっ! 池野はこうなることを見越して、大量のボタンを用意していた。全員もらえるから安心しろ!」



 それから、箱に入った大量のボタンを見せる。

 池野がこれだけのボタンを用意するのは、本当に苦労したそうだ。

 毎日学校が終わった後、制服からボタンを引きちぎっては保管しておき、かわりに新しいボタンを縫い付ける。それを何日も何日も何日も続けたんだ。



 いちいち引きちぎったり縫い付けたりするくらいなら、買ったボタンをそのまま渡せばいいのに。

 そう思ったが、熱心な池野のファンは、こいつが一度使用したものかどうか、オーラでわかるらしい。

 そういうズルはできないのだ。



「みんなの憧れの的っていうのも、大変だな」

「まあね。それより、ボタン配るの手伝ってくれてありがとな」

「いいって。俺たちの卒業式に、暴動を起こして死人を出すわけにはいかないからな」



 というわけで、俺たちの卒業式を無事終わらせるため、半分肉食獣と化した池野のファンたちに、ボタンを渡していく。

 と言っても、一人一人に一個一個渡していったら、時間がかかりすぎる。



 なので、ボタンを鷲掴みにし、池野ファンたちに向かって放り投げた。



「ほら、受け取れ! 一人一個だ!」

「「「キャーッ! 池野くんのボタンーっ!」」」



 我先にとボタンに群がり、あっという間にとっていく。新たにボタンを投げると、また同じように群がる。

 まるで、池の鯉に餌を投げ込んでいる気分だ。

 もしくは、ボタンをばら撒く動作から、節分の豆まきを彷彿させる。

 鬼はー外! 服はーうち!



「ほらほら。拾った奴は退散して。あっ、校長先生。そんなにたくさん独り占めしようとしないで!」



 そんなこんなで、池野の第二ボタン争奪戦は、暴動に発展することなく、平和に終わることができた。

 ようやく池野のファンたちも退散し、一段落ついたところで、俺たちは揃ってため息をつく。



「ボタン配るの、手伝ってくれてありがとう。結局、卒業するまで迷惑かけっぱなしだったな」



 疲れた顔で、それでも笑いながらお礼を言う池野。

 だが俺は、大変ではあったが、嫌だとか迷惑だとかは思っちゃいない。



「よせよ。俺は、俺がそうしたいから協力しただけだ」



 もしこれで死人やケガ人が出たら、池野が誰よりもショックを受けるだろう。

 男子の中には、池野がモテモテで羨ましいと言うやつもいる。俺だって、そんな気持ちが少しもないわけじゃないが、コイツもコイツで苦労してるんだよな。



 何より、コイツは、楽しくていいやつだってのは、三年間一緒にいてよくわかった。

 そんなやつとの最後の日を悲惨な思い出にしたくない。協力したのは、そんな俺の意思だ。



「お前と一緒の三年間、楽しかったぞ」

「俺だってそうだよ。ありがとな」



 そうして、俺たちはコツンと拳を付き合わせる。

 その時だ。



「ぐふっ───!」



 突然変な声がしたかと思うと、教室の隅で、何人かの女子が倒れていた。

 池野のファン。みんな退散したと思っていたが、まだ残っていたのか。

 けれど、なぜ倒れているんだ?



「どうした? 何があった?」

「わ、私たち。ボタンをもらい損ねて、どうしようかと途方にくれていたんです」



 なんだって? なるほど、そのショックで倒れたというわけか。

 全校生徒の人数以上の数を用意したけど、まだ足りなかったか。

 最後の方は生徒だけでなく、先生、卒業式に参加した保護者や家族、来賓の挨拶に来た町長さんまでもらいに来ていたからな。



「どうしよう。ボタンはもうないし、何かあげられるものはないか?」



 困る池野。だが、倒れている女子たちは、それを制した。



「いいの。形あるものより、もっと尊いものを拝ませてもらったから」

「池野くん。それにいつもその横にいたナントカくん。二人とも、尊いわ」

「二人一緒に、私たちの永遠の憧れになりました」



 口々にそう言っては、みんなこの上なく満足そうな表情をしている。

 なんだ? 池野だけでなく、俺まで尊いだと?

 よくわからないが、彼女たちが満足そうなら、それでいいか。



 こうして、俺と池野は、無事に高校を卒業した。

 その後この高校では、最後に会った女子たちの作った薄い本がとんでもないブームになるのだが、既に卒業している俺や池野にとっては、知らない話であった。





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