あこがれの先輩と、部室でふたりきり。ヤること、ひとつだよね?

上城ダンケ

校則違反だよ、部室でそんなこと♡

「とうとう最終日ですよ、麻衣先輩!」


 今日は新入生部活見学期間最終日だ。俺は先輩に訴えた。演劇部に誰も見学に来ないからだ。


 御影麻衣先輩。3年生。演劇部部長。長い黒髪にいつも赤いカチューシャを付けていて、それがトレードマークだ。結構胸が大きくて、そのくせスレンダー。後輩の俺が言うのも何だが、とても可愛い。彼氏がいないのが不思議なくらいだ。


 俺の……憧れの先輩だ。こんな女性とお付き合いできたら。なんていつも考えている。お付き合いの……内容……口に出せないような……出すような……ことまで……考えている。


「だね」


 先輩は机に座ってなにやら紙に書き込んでいる。受験生だから勉強でもしているのだろう。


「だね、じゃないですよ麻衣先輩。見学期間が終わるってことは、大半の新入生が部活を決めてしまうってことですよ? もう、だれも演劇部なんかに入部しないですよ?」

「なんか困るの?」


 先輩は紙とにらめっこしたまま平然と言った。


「そりゃ困るでしょ! 今部員何人だと思っているんですか!」

「私と青木君の2人だよ」

「そーです、2人です! いいですか、上演には役者以外に、照明と音響の操作をする人間が必要なんですよ? 一人芝居やるにしても、最低3人は必要です! 2人じゃ無理なんですよ!」

「頭固いなあ、青木君は」


 先輩がこっちを向いた。大きな瞳が俺をじっと見つめる。


「そんなの、北島マヤなら難なく乗り越えるよ!」

「誰ですか? 北島マヤって」

「えー知らないの? 『ガラスの仮面』てゆー演劇漫画の主人公だよ。ほら、あそこの本棚にあるでしょ?」


 先輩が指さした先には、日に焼けてあらゆるところが黄色くなった古いコミックがあった。


「あー、あれ。なんで演劇部に少女漫画があるのか疑問だったんですけど、演劇がテーマなんですか」

「そうだよ。『ガラスの仮面』の北島マヤはどんな困難でも乗り越えるんだよ! 私たちも頑張ろう! ということで、青木君も『ガラスの仮面』読んでね!」


 そう言って、先輩は再び紙に向かってペンを走らせる。

 漫画ねえ……。参考になるのかね?

 てか、結局部員2人で決定なのか? そんな簡単にあきらめていいのか? まず、部員確保じゃないのか?


「わかりました、その漫画読みます。暇なときに。でも、まず、新入部員確保に行きましょうよ。他の部活は呼び込みしていますよ? あのコミュ障集団の文芸部ですら、正門付近で新入生に声かけているんです。僕らも行きましょう」


 ぱた、と先輩がペンを置いた。


「2人きりじゃ、いや?」


 いつもの陽気な先輩の声ではなかった。初めて聞く声のトーンだ。


「青木君は、私と2人きりの演劇部じゃ、いやなの?」


 先輩は身体はそのまま、頬杖をついて顔だけこっちに向けた。

 意味深な目つきで俺をじっと見つめる。なんだ? その声、表情……ま、まさか、先輩、俺のことを?

 いやいや、そんなことはない。あるはずがない。


「いやじゃないですよ。でも、部活として考えたときに……」

「知ってる? これって校則違反なんだよ?」


 俺の言葉を遮って先輩が言った。


「何の話ですか?」

「放課後・休み時間を問わず男女2人きりで教室で活動してはならない、って校則あるの知らない?」

「……知らないです」

「教室でえっちぃことする生徒が昔は多かったんだって。それでこんな校則できたらしいよ」

「へえ」

「私たち、男女だよね?」


 先輩がエロい目で俺をみた。回転椅子をくるっと回してこっちを向いた。ちょっとだけスカートがめくれて小さな膝頭が見えている。

 膝と膝の間が数センチ空いているから股の間が見える。それ以上は見えない。真っ暗だ。


 いかん。先輩の脚を見ていることがばれたらスケベと思われてしまう。憧れの先輩に軽蔑されてしまう。


 見ちゃ駄目だ。慌てて目をそらす。


「そりゃ、男女ですけど、校則がいうところの男女じゃないですよ」

「校則がいうところの男女って?」

「だ、だから、あれでしょ、教室でいちゃいちゃするようなリア充カップルですよ。つまり、付き合っている男女のことですよ!」

「……付き合ってないと、いちゃいちゃしたりしないんだ?」


 先輩がすーっと……開いた。


「私は、青木君といちゃいちゃしたいな」


 先輩が上目遣いで俺を見る。俺の心臓がバクンと鳴る。ドッドッドッと鼓動が強くなる。

 口の中が急速に渇き、それに比例するかのように手からは汗が出る。

 どういうことだ? 先輩が、俺と、いちゃいちゃしたい?


「青木君、いまさ……もっと開いたらいいのに、って思っているでしょ?」


 先輩がにやっと笑った。


「ええ!? なななな何を言ってるんですか? そ、そんなわけないじゃないですか!」

「ふーん。さっきから目線が私の膝のところなんだけど? 隠しても駄目よ。えっち!」


 先輩がぴたっと膝を閉じた。思わず俺はびくんと反応した。


「ほら、見てたじゃない。そーなんだ、そーゆー目で私見てたんだ」

「ち、違いますって!」

「じゃあどこ見ていたの?」


 先輩が椅子から立ち上がって、俺の方に近づいてきた。そして俺にぐいっと顔を近づけてきた。


「青木君さあ、いつも私のスカートの中、見ようとしてるよね?」

「え?」

「知ってんだ、私。気が付いてないと思ったの? 見てないふりして、いつも私の足見てるくせに。見えないかな、て思って見ているんでしょ? えっち」

「ち、違いますって!」

「じゃあどこ見ていたの? 本当のこと言わないと、先生呼んじゃうよ?」

「え? 先生?」

「そう、だって、これ、校則違反だもん」

「こ、校則違反?」

「そ。部室で2人っきりでえっちなことしてたから」

「そんなことしたら、麻衣先輩だって指導されますよ? いいんですか? てか、えっちなことしてません!」

「してたもーん。青木君、私にえっちなことしたもーん。だから、私は被害者だもーん!」

「被害者?」

「そ。えっちな後輩に呼び出されて……えっちなことされた被害者よ。いたずらされちゃった」

「だからしてませんて!」

「青木君のいうことと、私のいうこと、どっちを信じるかな、先生?」

「ず、ずるい! 先輩ずるすぎます!」


 先輩が椅子から立ち上がって、俺の方に近づいてきた。


「校則違反にならない方法、一つだけあるんだなー」

「な、なんですか?」

「3人になればいいんだよ」

「どうやって?」

「え? わからないの?」

「はい」

「赤ちゃん作ればいんだよ。そしたら3人でしょ?」


 ぱさ。布が床に落ちる音。


「赤ちゃんの作り方は知ってるよね?」


 先輩が意地悪く笑った。


「え、えっと、先輩、何するつもりなんですか!?」

「うん? もちろん、青木君の言ったとおり何だよ?」

「ええええ!」

「さ、じっとしててね……」 


 先輩が俺の前にしゃがみ込む。


「3人になろ♡」



 ♡ ♡ ♡



「……これで、校則違反じゃなくなったね」


 着衣の乱れを整えながら、先輩が言った。


 俺はついさっきまで先輩としていたことで頭がいっぱいだった。

 憧れの先輩が……あんな風に……脚を開いて……あんな声出すなんて。


「なんだかんだ言っても男の子なんだね、後輩くんも。ふふ。我慢出来なかったんだ」

「そ、それは……」

「はい、サインして」


 麻衣先輩が紙とペンを俺につきだした。さっきから麻衣先輩がなにやら書いていた、あの紙だ。


「なんすか、これ」

「婚姻届だよ」

「婚姻届!?」

「そ。青木君が18歳になったら、私が出してくるから。だから、今サインして」

「婚姻届!? って、俺と麻衣先輩結婚するんですか?」

「うん。えっちしたでしょ? それに今日ね、危険日なんだ。きっと赤ちゃんできてるよ。責任取ってね?」

「い、いきなり言われても!」

「嫌なの? 私のこと、嫌い?」

「ち、違います、あ、あの、俺だって先輩好きですし、その、えっと、先輩とあんな関係になれてとても気持ちよかった……いえ、嬉しかったです。だから、逃げたりしません」

「だよね。じゃ、サインして」

「サインします……」


 ペンを持ち、婚姻届の紙に俺はサインした。


「やた! これで両思いだね!」


 わーいわーいという先輩の声が頭の中に響く。そっか、俺、先輩と結婚するんだ。来年にはお父さんになるのかなあ。親にどう説明しよう……。


 そんなことを考えると、めまいがした。


 すーっと目の前が真っ暗になって、意識が遠のいていった。



 ♡ ♡ ♡



「……君、青木君!」


 気がつくと、先輩が俺を揺さぶっていた。


「もう、いつまで寝ているの! もう7時だよ!」

「え?」

「2時間くらい寝ちゃってたよ。下校時間とっくに過ぎているよ。校則違反だよ!」

「校則違反……」

「そう。ん? どうしたの? 顔が赤いよ」


 さっきのあれは……夢?


「いえ、なんでもないです」

「風邪ひいた? 春の風邪はしつこいよ! 気をつけてね!」


 無邪気に先輩が俺の顔をのぞき込む。近い。近いよ先輩。俺の理性を攻撃しないでください。


「ねー、青木君。こんな校則知ってる?」

「どんな校則ですか?」

「やむを得ず下校時刻を過ぎてから下校する場合は必ず複数で下校すること、ってやつ」

「なんですか、それ」

「昔はこの辺治安が悪かったらしいよ」

「へえ」

「てことで、一緒に帰ろ」


 ちょっとだけ恥ずかしそうに先輩が言った。こんな純真で素朴な先輩に、夢の中とはいえ俺はなんて破廉恥なことをしたんだ。

 申し訳ないという気持ちと、夢でも憧れの先輩とそういう行為が出来た嬉しさで、なんとも奇妙な感じだった。


「あ、そうそう」


 部室の鍵を閉めながら、先輩が話しかけてきた。


「赤ちゃんの名前、どうする?」

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あこがれの先輩と、部室でふたりきり。ヤること、ひとつだよね? 上城ダンケ @kamizyodanke2

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