第21話

「……は」


呆れた笑いしか出てこなかった。


言えるわけがない。本当は、ひなたに課した問いなんてクソみたいにどうだって良いと思っていて、暇さえあればこんな頭の可笑しい事をずっと考えているだなんて事。



俺は四六時中、俺自身に怯えている。だから、ひなたが差し出す答えから眼を逸らし続けている。


歯止めが効かなくなるのが恐ろしくて、ひなたに正解のない課題を与えた振りをして、自分自身に楔を打ち込んだ。



救いようのない本当の阿呆は、俺の方なのだ。




「……アイス……なんでアイスが野菜室に……でも溶けてないからセーフだよね……」



再びひなたが寝言を唱えた。夢の中で何か食ってるのか、口がもごもご動いている。


食い物の夢しか見ないのか、こいつは。


なんだか妙に笑えて、また懲りずにひなたの頭を撫でまわした。



何も気が付かずに笑っていてほしい。


俺の欲望がひなたに慣れるまでの時間を稼ぐだけに存在している、意味のない生活の中で。


いつか俺がまともな『大切の仕方』を学べるその時まで。



「……ほんとアホだわ」



だからどうかその時まで、お前はまだ、仮初めの恋人のままで良いよ。



- 完 -

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仮初めの恋人で良い。 上條 一音 @ichine_kamijyo

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