転生勇者よ冒険者のリアルを知れ 〜無双する転生勇者の裏側で起こる一般冒険者たちの冒険譚〜

@hirohirosann

プロローグ 「燃える夜」


 ──その夜、すべてが燃えた。


 空を覆う紅蓮の炎、爆ぜる木々、悲鳴のこだまする村。

 家が崩れ、人々が逃げ惑う。だが、逃げ場などどこにもなかった。


 村の中央にそびえる巨木が、まるでろうそくのように音を立てて崩れ落ちる。燃え盛る炎の向こう、黒い影が立っていた。


「へえ、俺の魔法、やっぱり強えな!」


 屈託のない笑顔。

 それは、どこか楽しげで、どこか誇らしげな表情だった。

 だが、その言葉が誰の耳にも届くことはなかった。


 燃えさかる炎の中、少年はただ、転生の力を試していたに過ぎない。

 彼にとっては遊びの延長、無邪気な好奇心の産物。

 だが、それによって村は滅び、そこに生きる者たちの運命は塗り替えられた。


 ──そして、ただ一人の生き残りがいた。


 焼け焦げた地面にうずくまり、炭のようになった家々を見つめる青年。

 目の前で家族が焼かれ、友が叫びながら崩れ落ちていった光景が、脳裏に焼き付いて離れない。


「……ふざけるなよ……」


 声にならない声。

 喉が焼け、唇が乾き、血の味が広がる。


「ふざけるなよ……!」


 地面を握りしめた指から血が滲む。

 何もかもが燃え尽き、灰となった。


 しかし、青年の心に灯った炎だけは、消えることはなかった。


 復讐の炎が。


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


 青年の名は──カルミア・ヴァレン

 この夜、彼はすべてを失い、そして、生きる意味を見つけた。


 転生勇者を殺すこと。


 それだけが、彼に残された唯一の道だった。

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