第11話 元カレ

「そういえば…勝村君は来ないの?」


実奈先輩が渡会さんに聞いていたタイミングで席に戻ってきてしまった。私に気付いた実奈先輩は苦笑いをする。


「アイツは外回りだから遅いんじゃないかな?多分、部長と一緒に来るかと思うよ」

「部長…ですか」


私は席に座ると烏龍茶を手にする。


「お開きのギリギリに来て顔だけ見せて帰るよ、いつも通りに」

「部長は、そうですよね」


部長は基本的に部下とのお酒の席には同席した事がない。気を遣わせてしまう事を避けているらしい。あとは愛妻家の為、早々に帰りたいという理由もあるらしい。

逆に元カレは残って二次会参加する人なので早々に退散したいとこだ。


「俺も一次会で帰るから、一緒に出ようか」

「私達も一次会でお暇しましょ」

「あ、はい。そうですね」


渡会さんは笑顔で帰宅を誘ってくれた。本当にイイ人だと思う。私は時計を確認する。そうするとあと1時間程度で解散できるのだろう。


「なんの話ですか?」


伊野さんはお手洗いから戻って来ると席についた。ちゃんと私の横に戻って来てくれるのがちょっと嬉しい。


「俺らは一次会で解散するって話」

「え、じゃあ自分も帰らせてもらおう」

「主役なのに?」

「一次会だけで良いですよ」


伊野さんと渡会さんは気が合うのか仲が良いと思う。2人はその後もずっと楽しそうに話していた。


ーーーーー


そして一次会が終わる15分前、部長と元カレ勝村さんが姿を現した。


私は渡会さんの横で身を潜め、気付かれないように気配を消す。こんなにも騒がしいのだから気付かれないと信じたい。

ただ…元カレは…女癖が悪いので、女性社員をチェックしがちなのだ。ここは浮気相手っぽそうな崎山さんのとこで止まってほしいとこだ。


「お疲れ様でーす!あれ?経理の貞倉さんが参加してるなんて珍しいな!」


ニコニコと近付いてくる勝村さんに実奈先輩は苦笑いしていた。


「お疲れ様です」

「えー、貞倉さんがいるって事は岸本きしもとさんも…あ、いた!」


勝村さんは佳澄を見つけると手を振った。佳澄は離れた席で頭だけ下げてスルーする。

2人はいつも食堂でランチしているから知られているのだと思う。


「伊野君もお疲れ様でーす!」

「勝村さんも外回りお疲れ様です」

「どう?親睦会で親交深まった?」

「そうですね」


段々と近付いて来た元カレと運悪く目が合ってしまう。思わず咄嗟に視線を反らす。


「え?あれ?高坂さん?」

「……」

「なんでいるのさ?辞めたんじゃなかった?」

「…辞めて…ない…です」


気まずい…。今更、何とも思っていないけど…嫌悪感は拭えない。


「全然変わらないね」

「そんな事は…ないかと」


グイグイと近付いて顔を覗き込んでくる為、私は固まってしまう。


「勝村、結婚前に女性社員に絡んだりしたら嫁さんが機嫌悪くなるぞ」


それに気付いてくれた渡会さんが笑いならが間に入ってくれる。序列的に渡会さんは上司だから勝村さんはこれ以上圧しては来れない。


「後輩に挨拶ですよ」

「一歩間違えればセクハラになるぞ?」

「そうだよ、勝村君」


今思うと…何で私は昔、勝村さんが好きだったのだろう。

確かに少し身長は低いけど顔は悪くない。一応私よりは背が高いし。性格は俺様な部分はあるけど話は楽しかったりもしたので気にならなかったのはある。


「可愛がってあげてたのにセクハラは酷いな」


そう言いながら私と伊野さんの間に割って入ってきた。


「ねぇ、伊野君って彼女いるの?」

「え?何でですか?」

「女子社員を代表して質問!」


伊野さんに質問する為に横に座ったっぽいが、少し距離が近い。狭くて体が密着している。


「好きな人とかいるの?」

「…」

「気になる女とかは?」

「…いますよ」


質問の返事を苦笑いで答える伊野さん。元カノに未練があるとは言いたくはないよな流石に。

あと多分、もしかすると私に気を遣っているのかもしれない。


「えー!どんな女?」

「それは黙秘ですね」

「じゃあさ、今まで何人彼女いた?」

「彼女は1人だけですよ」


伊野さんが今まで彼女1人という回答に周囲がザワつく。確かに見た目判断だと意外に見えるだろうが…『彼女は』と言っている。

『は』に私も含まれるんだよな…と苦笑いだった。経験人数とこれまでの彼女人数が同じとは限らないよね。


「唯一、伊野君を射止めた彼女ってどんな女だったの?気になるし!」

「黙秘です」

「えー、じゃあ何で別れたの?まだ好きなんじゃないの?」


流石にプライベートに踏み込み過ぎではなかろうか。例えお酒の席だとしても。


「黙秘ですね」

「それは、振られた側か!」

 

「勝村」


渡会さんが気にかけて話にストップをかける。そのタイミングで勝村さんは体の向きを私側に変えた。昔から距離感が近い人で、そのせいもあって流されてしまっていた私は動揺した。


「どうかした?」

「勝村さん、近いですよ」


私に笑いかけた勝村さんに伊野さんが距離感を注意する。


「狭いから仕方ないよな高坂さん、ねぇ」

「勝村君が間に入ってくるから!」

「え、だって伊野さんと話したいじゃないですか!」

「残念ながらもう一次会終了の時間だよ」



帰り支度を始めた実奈先輩を見て私もいそいそと帰る準備を始める。さりげなく場所を移動して勝村さんから離れると佳澄がやって来た。


「先輩方、私、同期もいるので二次会参加して来ますが」

「そうなんだ?うちらは帰るよ」

「そうなんですね、じゃあお疲れ様です!」


二次会参加を告げると佳澄は同期のところに戻って行った。

既に半分くらいは居酒屋を出ていて、私達はユックリ出る事にした。

勝村さんも崎山さんに誘導されて二次会組に合流していた。これ以上は絡まれたくはないのでホッとしている。


「桜どうする?明日休みだしお茶でもする?」

「いや…今日はもう帰ります」

「そか、残念」

「それなら俺が付き合おうか?貞倉さん」

「え?行きます?」


会計から戻ってきた渡会さんが実奈先輩に声をかける。


「伊野君も行く?」

「いや、俺も今日は帰ります。昨日戻ってきたばかりだし」

「そうだよな、疲れてるよな!」


少し離れた場所で帰る準備をしていた伊野さんに渡会さんが声をかけてると実奈先輩は内容に驚き質問する。


「伊野君、昨日戻って来たんだ?え?家は?」

「今はとりあえず実家に世話になってますよ。物件決まってないし」


伊野さんは警戒心もなく普通に受け答えをする。


「そうなんだ?大変だね!実家は近いの?」

「隣の駅ですけど、徒歩でも帰れる感じですよ」

「助かるね、それ」


他愛もない会話が平和だな…なんて思ってしまう。ずっとこんな感じでいれたら普通に楽しいのだろうな。



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