SFショートショート『キャラクター』
星谷光洋
キャラクター
俺は、某テレビ局の美人アナによく似ている女と出会った。俺にとってのアイドルだ。
服装と髪型は違うが、ついさきほどまでラーメン店でみていた、ニュース番組の鷹花アナにそっくりだと思ったのだ。
彼女はショートカットで、しゃれた水玉模様のワンピースをうまく着こなしていた。自慢じゃないが、俺は女性を誘うテクニックと、子孫をふやす能力だけには自信がある。
俺は街角で、空を寂しげにみあげている美人アナ似の女に声をかけた。美人というのは意外と彼氏がいない。あまりに美人だと、どうせ彼氏がいるのだろうと、男たちも声をかけないものだ。
「君を待たせるなんて、贅沢な男だね」
彼女は警戒心をあらわにして、俺の言葉を無視をする。だけどこんなのはおきまりのパターンだ。
俺は急に腹を抱えて倒れこむ。
「どうしたのよ?」
彼女は周囲を見まわしながら、俺のそばに寄ってきた。俺は急にとびっきりの笑顔をつくり、君は本当にやさしい人だと口にする。 彼女も微笑み俺をみつめた。
もう、ここまでくれば話ははやい。俺のいきつけのレストランに二人ではいり、テンポよく会話をすすめた。ただ、美人アナに似ているという話をしたとき、彼女の表情は突然固まった。しまった! と思ったがもう遅い。彼女はそそくさと席を立ち、レストランの入口にむかってしまった。
俺は床に頭をこすりつけていかないでと懇願する。女の心をつかむためにはこのくらいの情熱が必要だ。 彼女は、あなたには負けたわと、オーロラのような笑顔をみせた。
その後、レストランで彼女から聞いた話はとても信じられないものだった。
「私ね。鷹花孝子のキャラクターなの」
俺にはなんのことかわからない。
「つまりね。私の姿だけをコンピューターにとりこんで、声はAIのアナウンサーでニュース番組をつくっているというわけ」
「なぜそんな面倒なことを?」
俺は彼女の顔をまじまじとみつめた。そう簡単に信じられる話じゃない。
「そう、信じられないよね。私、テレビ局の人からモデルの仕事ということでスカウトされたんだけど、こんな形でテレビにでるなんて思わなかったし、みんな鷹花孝子に似ているって声をかけてくる。もう、本当にうんざりなのよ。そのことでテレビに電話しても、たんなる他人の空似ですって、まったくとりあってくれないのよ」
俺はベットインを果たした後、別れ際につぎのデートの約束をした。その後俺は繁華街に建てられたマンションの自宅に帰り、テレビをチェックしてみた。鷹花孝子は『ジャストニュース』という番組のキャスターだ。
俺は彼女の話を確かめるために、生放送中、鷹花アナが出演したときに、俺は彼女の携帯電話にかけてみた。
「私よ。鷹花アナは生放送中のはずよね。私の話を信じる気になった? 私、撮影したあとに、うっかりどこかの部屋にはいって、とても信じられない話を聞いてしまったの」
「なんだよ、信じられない話って?」
「滅亡を危惧した政府が、世界中の人々になにも知らさずに、少しずつほかの惑星に移住させているらしいの」
「なんのことだ?」
「私たちがみている世界は、本当はVRのような立体映像か、幻覚なのかもしれない。きっとパニックを怖れた政府の陰謀なのよ」
「君はSF映画のみすぎだよ。だいいち、俺は移住させられるほど優秀な人間じゃないよ」
「そうかしら、子孫をふやすこともりっぱな才能よ。今夜、そのことを私に証明してくれたじゃない」
俺は種馬として政府に選ばれたというのか? 俺はカチンときて、なにか言い返そうとしたときだ。
テレビに出演中の鷹花アナの動きがおかしくなった。頭をぐるぐるまわし続けて、痙攣しているように体をふるわせている。それなのに男性アナはなにもなかったように、鷹花アナを相手に会話を続けている。
そして突然画面が暗くなり、『しばらくお待ちください』というテロップが流れ、そのあと家の照明が消え、テレビの電源も消えた。通話も切れて、かけなおすこともできない。 俺は釈然としない思いのまま、ふと窓の外から街をながめてみた。
いったいどうしたというのだ? ついさっきまで窓からみえていたビルもなく、モノトーンのシンプルな建物がいくつか建っているだけだ。きらびやかなイルミネーションもみえない。遠くのほうをみると、どこかでみかけた火星のような、荒涼とした風景が広がっていた。
(fin)
SFショートショート『キャラクター』 星谷光洋 @iroha13
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