第32話 氷の迷宮、26階層から30階層へ
氷になぞられる様に不快な活動をしているんじゃないかと思うほどに寒い空間。
不都合なほどに眠くなる空間だが悪しき悪の霊が飛び出る。
26階層はダークゴーストが出現する。
そんな悪意の塊のように闇の弾丸を放ってくる。
ユキは氷迅爪を放つ。
左から右にさらに放つ。
氷の刃が闇を裂き、ダークゴーストの体が歪む。
だが霧のように散り、すぐに形を取り戻した。
「……再生する」
闇の弾丸が至近距離で放たれ、ユキは半歩だけ下がる。
一瞬、氷迅爪の軌道が鈍った。
「……少し、厄介」
ユキは息を整え、間合いを詰め直す。
次の一撃は迷いなく核を貫き、闇の悲鳴とともにダークゴーストは霧散した。
27階層に来た。
ここではブラストデーモンが出現する。
氷の空間だがなかなかにしぶとい敵も出る。
炎を纏った拳が振るわれ、氷の床が爆ぜる。
ユキの氷迅爪が命中するが、完全には止まらない。
「……凍りにくい」
爆風で距離を取られ、ユキは一度体勢を崩す。
だが踏み込み直し、今度は連続で爪を叩き込んだ。
遅れて凍結が回り、ブラストデーモンは動きを止めた。
ブラストデーモンの動きを止めてさらに連撃を喰らわす。
そしてユキは止めを刺す。
28階層に足を踏み入れる。
ここではアイスガーゴイルが複数体、連携して襲ってくる。
空を舞い、挟み撃ちにしてくる厄介な敵だ。
「ユキ、上を任せる」
「……分かった」
俺は前に出て盾代わりになる。
重量半減を活かして間合いを詰め、攻撃を引きつける。
その隙に、ユキの氷迅爪が空を裂いた。
凍りついた翼が砕け、ガーゴイルが落ちる。
残りも俺が牽制し、ユキが確実に仕留めていった。
29階層まで来た。
ユキが少しだけ息が上がる。
なので体力ポーションをあげた。
ユキは無言で受け取り、喉を鳴らして飲み干す。
「……少し、楽になった」
氷の迷宮はまだ続く。
だが、足は止めない。
30階層まで来た。
ボス戦だ。
だが嵐の前の静けさか敵の姿が見えない。
大きな扉を開く。
中にはヘルハウンドドックが鎮座していた。
地獄の番犬かな?
なかなかに強そうだ。
低く唸り声を上げ、赤い瞳がこちらを捉える。
ユキが一歩前に出て、氷迅爪を構えた。
床の氷が、きしりと音を立てる。
ヘルハウンドドックの視線が、俺に向く。
次の瞬間、床を蹴り、一直線に突っ込んできた。
「……っ!」
俺が構えるより早く、影が迫る。
「天都――!」
ユキの声が、わずかに乱れた。
一拍遅れで、氷迅爪が閃く。
牙が食い込み、右腕に鋭い痛みが走る。
「くっ……!」
血が滲み、ヘルハウンドドックが唸り声を上げる。
その瞬間、空気が変わった。
「……離れろ」
ユキの声が、低く冷える。
怒気を孕んだ氷迅爪が一気に放たれ、地獄の番犬を切り裂いた。
ユキは止まらなかった。
一気に踏み込み、氷迅爪を連続で叩き込む。
床ごと凍りつき、ヘルハウンドドックの動きが完全に止まった。
「……やりすぎだ、ユキ……」
思わずそう漏らすほどの猛攻。
だが、次の瞬間には敵は崩れ落ちていた。
ユキは静かに息を吐き、こちらを振り返る。
「……大丈夫?」
その声は、いつものユキだった。
ヘルハウンドドックが霧となって消える。
同時に、床に淡い氷の光が広がった。
ユキの身体から、微かに冷気が溢れる。
「……何か、残ってる」
俺が右腕を押さえたままそう言うと、
空間に文字が浮かび上がった。
《ボス撃破ボーナス獲得》
《氷心共鳴》
主人公がダメージを受けた時、
ユキの氷系スキルが一時的に強化される
《守護衝動》
主人公が危機に陥ると、
ユキの行動速度が上昇する(自覚なし)
「……さっきの、あれ……」
ユキが自分の手を見る。
怒りで踏み込みすぎたと思っていた動き。
だが、それは偶然じゃなかったらしい。
「俺が噛まれた時、ユキ……速かった」
「……そう?」
首を傾げるユキ。
どうやら《守護衝動》の方は、本当に自覚がないようだ。
氷の迷宮は静まり返る。
だが、確かに何かが変わった。
――ユキは、俺を守るために強くなる。
消えゆく霧の中に、二つの素材が残っていた。
黒く鋭い牙と、焦げたような質感の毛皮。
「地獄の番犬の牙……毛皮もあるな」
「……強い素材」
ユキが静かに頷く。
今すぐ使えるものじゃない。
だが、確実に“先”へ繋がる戦利品だった。
怪我を治すために体力ポーションを傷跡にかける。
ひりつくような痛みが一瞬走り、そのあと熱が引いていった。
「……跡は残るけど、動かせるな」
ユキがじっと俺の腕を見る。
「……無理、しないで」
「分かってる」
そう言って、俺たちは氷の迷宮を後にした。
◇
梅田ダンジョンの出口を抜け、ギルドに戻る。
ざわついた空気と人の声が、妙に現実感を伴って押し寄せてきた。
「30階層まで行ったのか……」
受付の職員が、端末を見て小さく息を呑む。
ユキは何も言わず、俺の少し後ろに立っていた。
今日の戦いを終えた実感が、ようやく胸に落ちてくる。
――ひとまず、帰還だ。
ダンジョンテイマー ~ウルフと思ったら最強のフェンリルの少女を手名付けた俺は最強のテイマーを目指す~ 仮実谷 望 @Karimin
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