「おもちゃデビュー! してみない?」
「おもちゃデビュー! してみない?!」
「急にうるさっ」
三人の中で一番早くに起きた五十嵐ちゃんが服を着ながらそう言った。おもちゃデビューが私の知っているおもちゃなら服を着なくてもいいと思うんだけど。なにかしたいことでもあるのかな?
「……おもちゃって隠語的なあれだな?」
「うん!」
「うんじゃないが。なんで今言うんだ、起きたばっかりだぞ」
「とりあえずシャワー入ろ? 身体ベタベタでしょ?」
私の提案に弥生ちゃんは頷く。弥生ちゃん"は"ということは五十嵐ちゃんはそうではないということだ。私の言葉を聞いた瞬間五十嵐ちゃんは渋い顔をしていた。そんな顔も可愛いの流石じゃない?
「……シャワーに入らないつもりか?」
「シャワーに入るかどうかはわたしが決めるっ!」
「入ろうねー、五十嵐ちゃん流石にダメだよー。服着ても逃げれないよー」
ジワジワと私たちから遠ざかっていた五十嵐ちゃんを掴んで連行する。じたばた暴れているが私の方が力が強いので簡単に引っ張れる。ふむ……つまりは押し倒したら彼女はもうどうすることもできないってことやめておこう。
いやしかし夏とはいえ裸だから寒いね。今の私は弥生ちゃんと合わせて部屋の中では裸で過ごす裸族の一員。五十嵐ちゃんだけが服を着てるよ。
「わ、わたしシャワーアレルギーだよー?! ひ、人殺しになってもいいのー?!」
「なぁに、昔の人も言ってただろう。アレルギーは本人の怠慢だってな」
「やよいちゃん昔の人の言葉は信じていいものと信じてはいけないものがあるんだよ!」
「……ちなみに裸だから思ったより寒いって話していい?」
「諦めてシャワー入りまーす!」
五十嵐ちゃんはそう言うと率先して脱衣所へ向かった。……もしかしてこれ三人で一緒にシャワー浴びようとしてる? いや気づいてなかったけど三人一緒に入るスペースあるかなぁ?
………楽しそうだしまぁいっか!
「……どうしてお前は時々何か考えてそうな顔をしてるのになんで全部の結論がまぁいっかの顔になってしまうんだ?」
「可愛いから」
「うっ……な、なんでもすぐ可愛いと言えばなんとかなると思うな!」
可愛い。
「可愛いから可愛いって語句しか私の中に出てこない可愛い」
「可愛いが三つもあったら適当に言ってるんじゃないかと思うぞ」
「可愛い」
「だ、だからと言って一つにすればいいってもんじゃ」
「可愛い」
顔を逸らして照れてる。可愛い、もう一押しかな? 可愛い。
「……ご、語彙力が減ってきてな」
「可愛い」
「……!! は、早くシャワーに入るぞ……!」
弥生ちゃんの限界許容量オーバー! 弥生ちゃんは頭を冷やそうと頑張っている。まだシャワーから上がってもないのに弥生ちゃんから湯気が出ているように幻視する。ふっ、おもしれー女……
「可愛いなぁ」
「……詩歌ちゃーん? わたし詩歌ちゃんが寒いって言うから早くに言ったのにまだシャワーに来ないのはなぁぜなぁぜ?」
「なぁぜなぁぜはダメだ私に効くそれは」
「なぁぜなぁぜ?」
「ぐわーーー!!!!」
「詩歌ーーー!!!」
イチャつく私たちを弥生ちゃんは冷たい目で見ながら何も言わずにお風呂場に入って行った。デジャヴ? なんか経験あるんだけど、もしくは自分たちに降りそそぐ運命を事前に知って運命を覚悟できる世界になった?
「ドミネ・クオ・ヴァディースー!」
「僕は主なんかじゃないから早く入れ! 風邪ひいても知らんぞ!」
というわけで、結局三人一緒にシャワーを浴びることになった。
「うーん、昨日のアレから耳が孕んでる状態のままだから洗わないと……」
「んん? わたしが洗ってあげようか?」
「いや、もう一度孕まされそうだし、普通に洗ってくれるとしても多分変な気起きちゃうから遠慮しておこうかなって」
「そっか、残念」
「残念なのか……」
今、普通に入れているじゃん。と思っただろ。三人入れないって話だったのに違うじゃん。とか思っただろ。甘いぞ。実に甘い。まるで"あの日"の弥生ちゃんのあ
「へぶっ」
弥生ちゃんにシャワーヘッドを向けられて水を顔にビシャビシャと当てられてしまった。私の心読んでない? あ、でも私の後ろにいた五十嵐ちゃんも二次被害でその水を浴びちゃったみたい。五十嵐ちゃんが丸い目で私と弥生ちゃんのこと交互に見てる。
「まだ頭が起きてない様に見えてな。水を浴びたかったんだろ?」
「顔だけにだったら意味がないかもしれないねぶぁっ」
「じゃあ二回くらいやれば効果があるな」
「なんでわたしは二回も水を当てられたんだろう」
「あー、それは……ごめぇんね?」
「やよいちゃんそれをどこで学んだの?」
正直、この方式でシャワーを回すのだったらお風呂も沸かせばよかったと今更ながらに思っている。がしかし寒かった私たちは止められなかった。クーラーが予想外に効いていたのが悪かったのかもしれない。
今の私たちはこんな感じ。一人、今の場合は弥生ちゃんがシャワーを使ってて、他の二人は浴槽で一緒に座ってる。二人で座ってるので割とあったかい。けど、なんでこんな変な方法を取ったんだろうと思うくらいには変な方法でシャワーに入っている。
「……終わったよ。僕はもう出るが」
「えぇ〜、もうちょっとだけここにいてもよくな〜い? うぅ、いがらしちゃんは悲しいよ。やよいちゃんが来てくれるのを待ってたのに〜」
「お前身体洗ってないだろ? それで僕にくっつかれたら僕がせっかく身体を洗った意味がぁ〜ないって言おうとしたのに抱きついてきやがって」
「小さいのが悪いよね」
「急な悪口? 別に小さくないが? お前が大きいだけだろ」
「大きいも麗らかな女子に対してはそこまで適切な言葉じゃないよね!」
私が身体を洗っている横でまた二人でイチャイチャしてる。くっ、私も混ぜろー!
……いやしかし詩歌はいいことを思いついた。しかし詩歌を使いたかっただけね。わざわざ一人ずつ身体を洗っていく必要はないんだよね。というわけで、浴槽の中で器用に動き回っている二人にシャワーヘッドを向ける。
「あばばばば」
「……小さくてよかった。しかし詩歌、どうしてこんなことを?」
「一人ずつ身体を洗うんじゃなくて、洗いっこした方がよくない? 私はそっちの方がいいな!」
「僕はもう身体を洗い終えてるんだが」
「五十嵐ちゃんもそれがいいでしょ」
「いいと思います! なのでシャワーヘッドを貸してください」
にこやかな顔をしている五十嵐ちゃんにシャワーヘッドを渡す。五十嵐ちゃんは嬉しそうにそれを持った瞬間、躊躇いなくその銃口をこちらに向けてきた。
「ぐわーーー!!!」
「詩歌ーーー!!!!」
「天丼? しかもやってる側なのに叫ぶのか?」
「ビックリの数が違うから、こっちはビックリビックリビックリビックリだよ」
「あぁエクスクラメーションマークのことか」
「感嘆符の方がわかりやすくなーい?」
「いつまで私にそれを向け続けてるのさ、早く身体を洗お?」
「なっ、どうやってこれを防いだ!」
「はっはっは、閉店ガラガラさ!」
そうやって顔の前で手を開いたり閉じたりする。開いた瞬間にぶしゃーって顔にシャワーが当たるから開くのはやめよう。
「……身体洗わないのか?」
「もうちょーっとだけ待ってて! これの攻略法を編み出すから!」
「ハハハ、この無敵の防御はやぶれまい!」
「いいや、正義は勝つよ!」
「勝った方が正義だからどっちが勝つのかなんてわかるはずがない!」
「違う……! 諦めないのが正義だー!」
「きゃー!」
「………」
このお茶目な女子たちによるお遊びを無言で見ていた弥生ちゃんは五十嵐ちゃんからシャワーヘッドを奪い取った。そしてなんとも残酷とも取れる様なSっ気の含んだ声でこう言う。
「僕は身体を洗い終えたからな。すなわち言い換えれば僕にはこのシャワーヘッドを好きに操る権利があるということだ。君らは身体を洗わないといけないから、水なんて出して遊んでいられないが、僕は違う。やりたい放題だ。諦めないのが正義らしいが……僕の気が変わる前に早く身体を洗うといい。そうでないなら、簡易的な賽の河原を楽しんでもらうことになるが」
そう言い放つ彼女を前にして、私たちはなるだけ早めに身体を洗わないわけにもいかなかった。
◆◆
「……結局、シャワーだけにどれだけ時間をかけてるんだ。しかもそこまでしっかり洗ったわけでもないのに……」
「いいでしょ? どうせまた身体は汚れるんだから、それともやよいちゃんシないの?」
「………どちらかと言えば……《small》する、が……《/small》」
「……チョロいなぁ」
「ちょ、チョロって酷いぞ!」
「おーい、色々するんだったらまた後で、お腹すいたから先にご飯食べよ」
しょうがないなぁ、と二人がこっちに来る。いや弥生ちゃんは微妙に不服そうだけど、でもチョロいのは事実だと私は思います。
「僕はそんなにチョロいか? 僕的にはむしろ厳しい方だと思うんだが」
「うーん……やよいちゃんは少なくとも性に関して言えばこの中の誰よりもチョロいよ!」
「えっ」
「まぁそういうところが可愛いよね、可愛い」
「いがらしちゃんはぁ?」
「かわうぃ〜」
可愛さの可愛さパレードか? おっとまた私の語彙力が消えてきたから一旦やめとこう。可愛いんだから。
「だ、だってしょうがないだろ……お前らのことは嫌いじゃないんだからさ……」
「くっ、レギュレーション違反だよ!」
「なっ、何がだ?」
「急に可愛い言葉を言うこと! 見て、詩歌ちゃんが死にかけてる!」
「い、いい……人生だった」
「いや地面に突っ伏してるだけじゃないか」
「待って、詩歌ちゃん! 遺言は!?」
「遺言……? ……願いを叶えてやろうって言ってくるやつの大半は願いを叶えてくれないよね」
「それは僕の知ったことじゃないぞ!」
弥生ちゃんはふざけてないで起きろ、と地面に突っ伏していた私を無理やり起こした。
「はーい、じゃあご飯何食べよっか。もうお昼だよ」
「ピザにしよー! せっかく三人もいるんだから何か家で遊びたいなー!」
「お前……その快活そうな感じとは違って割とインドアだよな。いいぞ、僕も賛成だ」
「ゲーム楽しいからね〜、何してるの?」
「最近100連ガチャ無料ってよく広告で出てるゲーム、面白いぞ」
そう言って弥生ちゃんはスマホの画面を五十嵐ちゃんに見せる。その画面を五十嵐ちゃんは少し弥生ちゃんの肩から覗き込む形で興味深そうに見ている。
だが私は知っている。五十嵐ちゃんは普通にアウトドアな人ではあることを。だが、弥生ちゃんの前ではインドアが好きな弥生ちゃんと一緒に遊べる様に外には出ない様にしていることを。チラリと見えた五十嵐ちゃんと弥生ちゃんの顔はすごく嬉しそうだった。
「ん、じゃあピザにしよっかぁ。デリバリーってことだよね? 何にする?」
「わたしのお友達がいるピザ屋があるんだぁ、そこにしよー!」
「店舗じゃなくて種類を聞いたつもりだったんだけど……まぁいっかぁ可愛いし。それってどこのお店?」
「フルーツピザがメインのお店ー」
「正気か?」
弥生ちゃんがフルーツピザと聞いて即座に反応した。ソファーに座りながらスマホを触っていたが、そのスマホをやめてソファーから立ち上がってすごい目で五十嵐ちゃんのことを見てる。
「正気だよ〜、フルーツピザも食べてみたら案外悪くないかもしれないよ?」
「いやいやいや、ピザにフルーツだぞ? それは白米にあんこをつけて食べる様なものだ。というかフルーツピザって、端的に言えばパイナップルピザだろ?」
「パイナップルピザじゃないよ〜、生地にカスタードが乗ってて、その上にフルーツがたっくさん乗ってるの、焼かれたからかより甘くて美味しいんだよ?」
「そうだとしても僕の考えは変わらないぞ、僕はピザに甘くあって欲しくないんだ。ピザはピザの味がして欲しいんだ」
「フルーツピザもピザだよー」
「フルーツピザはフルーツピザという名前のピザ以外の何かだろう」
弥生ちゃんと五十嵐ちゃんはバチボコに討論を繰り広げる。
……誰がフルーツピザでここまで討論が繰り広げられると思っただろうか。さっきまでの笑顔は〜? いつのまにか弥生ちゃんはメガネかけてるし、うーん、まぁ〜その様子も可愛いしいっかな。
「む……! 詩歌またお前"可愛いからいっか"という顔をしているな? これは重大なことなんだぞ、僕たちのお昼ご飯に掛かってくるそとだ」
「詩歌ちゃんー、フルーツピザは美味しいよねぇ? やよいちゃんはまだ食べたことないみたいだけど、全然いけるよねぇ?」
「僕が詩歌に聞いているんだぞ?」
「わたしも詩歌ちゃんに聞いたっていいでしょ〜?」
「え、えーっと……、私に聞くかぁ……」
二人が両側から迫って来ていてだいぶ顔が近い。顔がいいんだ。可愛い。可愛いで頭がパンクして答えられないかも。というか昨日を思い出す。だけどもそんなことは言ってられない、もし変な答えだしたのなら、多分私はこの流れのまま自然に昨日みたいになるし……
「う、うーん……あっそうだ。五十嵐ちゃん、その店に普通のピザはないの?」
「普通のピザ? 別にあるよー?」
「じゃ、じゃあ今回は二人の意見の折衷案ってことで、フルーツピザも普通のピザも頼もっか、ね? いいでしょ?」
私がそう言ってみると、二人の気迫が少し弱まった。これで納得してくれたみたい。弥生ちゃんと五十嵐ちゃんは二人で顔を見合わせる。
「普通のピザがあるんだったらいいが」
「やよいちゃんにフルーツピザデビューさせたかったけど、まあしょうがないね!」
「お前おもちゃにフルーツピザに色んなものデビューさせようとしてるな?」
「いいでしょ! 色々始めてみると新しい発見があるんだよ!」
「それはそうだが……一日に二つは多いと思うんだが」
「じゃあ、やよいちゃんはどっちがいいの?」
「そ、それは………」
まぁ。話の流れ的に、わかるかもしれないが、本日の彼女は機械的に攻められたと、それだけの話である。
「つまり、快楽のための非生産的生産行為を僕としたいと、そう言うんだね?」 @howahh
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