あこがれを贈る
野森ちえこ
ドラマチックな恋を夢見て
その昔、ロマンチックでドラマチックな恋にあこがれた娘がいた。
愛し愛され、時にはすれ違ったり引き裂かれたり、運命に翻弄されつつも互いを信じ乗り越えていく。
娘は熱く、深く、激しく、燃えあがるような恋愛を夢見ていた。
しかし当時はまだ個人の気持ちよりも家同士の結びつきや社会制度のほうが重視される時代であった。
娘には
娘の夫となったのは非常におだやかな性格の青年で、結婚生活は平和そのもの。それはそれで幸福であったが、娘の胸には自由恋愛へのあこがれがずっとあった。といっても、夫を裏切るようなマネをしようとは思わず、やがて『いつか女の子が生まれたら、その恋を応援できる母親になりたい』と考えるようになったのである。
その後、娘は三人の子を出産したのだが、ものの見事にみな男子であった。
娘のささやかな夢はまたしても叶えられることなく葬り去られてしまったのである。しかし娘はめげなかった。
子育てに追われ、めげている余裕などなかったといったほうが正確かもしれないが、とにかく娘はめげなかったのである。
妻となり母となり、もう娘とは呼べない年齢となったころ、次男夫婦のもとに女の子が生まれた。
その時、祖母となった彼女の胸に去来したのはかつてのあこがれである。
自身ではついぞ叶えられなかった夢。ロマンチックでドラマチックで燃えあがるような、一生ものの恋が孫娘におとずれますように。
そんな願いをこめ、彼女はかわいい孫娘にひな人形を贈った。
ほんとうは立派な段飾りを贈りたかったのだが、マンション暮らしで飾るスペースがないと次男夫婦に却下されてしまったので、コンパクトな親王飾りにした。
なんにせよ祖母は孫娘のロマンチックでドラマチックな恋を強く、深く願った。
そうしてひな人形は祖母の願いをしっかりと受けとった。受けとりすぎた。
その結果、好きな人ができるたびに別離イベントが発生するという、孫娘をひどく困惑させる事態を引き起こすことになるのだが、それはまたべつの話である。
(おしまい)
あこがれを贈る 野森ちえこ @nono_chie
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