かぐや様は小説家 ―憧憬編―
藤光
大切なことを忘れるな
ずいぶんと久しぶりである。
「ほんとにね。カクヨムに登場するなんていつ以来かしら」
調べてみるとKAC20237『かぐや様は小説家 ―弁解編―』とあるので、カグヤがカクヨムに登場するのは2年前のKAC以来ということになる。
「そうだったかな」
お題は「いいわけ」で、月の宮殿に住む女王カグヤと夫ツクヨミ夫婦のもとにカクヨム学園の同窓生、藤光が訪ねてきて、小説が書けなくなった理由をくどくどと語っていくという内容だ。☆は41個。書けない理由が赤裸々に語られているところがウケたのか、藤光作品としては比較的評価が高い。
「思い出した。仕事が忙しくなったとか通勤に時間がかかるとかぼやいていた話ね。
https://kakuyomu.jp/works/16817330654539273220/episodes/16817330654539286317
あれから2年かあ。どうなのその後は? ま、去年のKACに参加してないってことだから想像はつくけど」
カグヤが登場するエピソードを書かなかっただけで、藤光は去年のKACにも参加している。カグヤこそこの2年間、まったくといっていいほどカクヨムにアクセスしてこなかったのだ。
「だってつまらないんだもの」
「ねえねえ、カグヤ――」
冒頭からここまで続いたカグヤと地の文とのやりとりにツクヨミがツッコミを入れた。
「そろそろ地の文とキャラクターが会話するってシュールなやりとりやめない?」
「どして」
「こういうメタ構造は分かりにくいから読者が離れちゃうんだよ」
「その程度のリテラシーしかない読者なんて、こちらから願い下げよ」
「……読者にけんか売ってるの?」
読者とWeb作家がけんかしてはいけない。Web小説の評価は読者からのPVによって決まる。読者から愛されてナンボのWeb作家が読者をディスるなど、愚の骨頂である。
「あー! あたしのこと愚の骨頂だなんて言った」
「だからメタはやめようよ」
ツクヨミの指摘は正しい。いい加減軌道修正しなければどんどん物語が脱線し、収拾がつかなくなるおそれがある。
そもそもカグヤがなにを想像して藤光が書けなくなったと判断しているのか分からないが、カグヤこそカクヨムに登場してこなかったということは、書いていないということであり、書けなくなったのはお互いさまである。
「あーあ、つまんない。つまらないから書かないのよ」
「書けないんじゃなくて?」
「書けないんじゃなくて、書かないのよ! 才能にあふれるあたしが書けなくなるわけないでしょ。書きたくならないのよ」
つねに考え方がポジティブなところが、カグヤの長所である。
「つまらないって、小説かかい?」
「そうよ。男性向けなら異世界転生、学園ラブコメ。女性向けでは、架空王朝、溺愛、サレ妻。アイデアもパターンも出尽くして、読んでも書いても『これどこかで読んだことある』とか『これはあのパターンね』とか――飽きちゃったの」
「ま、そういう感覚わからなくもないけどね。でもさ、そうは言っても書きたいんだよね」
カグヤは痛いところを突かれたという顔をした。そうなのだ。書いてはいないけれど、書きたいのだ。いまも。猛烈に。
「それは……そうだけど、もう楽しくないんだよ。以前はあんなに楽しかった小説が。あの頃のようには楽しめないんだよ!」
「うーん……それは」
小説を楽しむために必要なのはあこがれる力だ。
「え、なに。あこがれるって」
それは小説を通じて出会った物語やキャラクターにワクワクドキドキする力だ。読むときも書くときもこれがないと小説を楽しめない。
「また、メタ構造になっちゃったよ」
その力はどこからやってくるのか考えてことがあるだろうか。それは自分の内からやってくるんだ。
「自分って、あたしのこと?」
ある小説をがつまらないと感じるのは、その小説がつまらないからじゃない。ワクワクドキドキ、物語にあこがれる力が失われてしまっているんだよ。
「あこがれる力ってなに?」
それは自分自身に対する希望――自分にあこがれる力だ。たとえば小説を読んでこんな風に考えることがあるだろう。
――ぼくもこの物語のように冒険できたらいいな。
――わたしもこの物語のように恋をしてみたいな。
「たしかに、小説のヒロインに自分自身を重ねて読んだりするよね。そういうときは物語に没頭できるのよ」
「異世界転生なんてまさにそうだ。ifの世界に転生したもうひとりの自分の物語だよね」
あらゆる物語は、すべてもう一人のあなたという物語だ。物語がつまらない、物語が楽しめないと感じるのは、あなた自身があなたという物語を「どうせわたしなんか」とか「わたしがなにをしたって」という風に否定してしまっているからなんだ。
「……」
「カグヤ……」
でも、あなたはふたたび、あなたという物語を信じることができる。どうやって? そのためによい物語を読もう。現実の書籍でもいいし、Web小説だっていい、カクヨムにもたくさんいい小説はある。よい物語は、あなたに自分を信じる力を与えてくれる。大切なことだからもう一度いう、小説を楽しむために必要なのはあこがれる力だ。
☆☆☆
「なんかムリヤリって感じじゃない?」
「うーん、かなりの力技だったね。あのメタ構造は小説としては反則スレスレじゃないか」
「完全に反則よ。メタ構造にすればお題の回収が楽チンなんだもん。KACでは禁止すべきね。藤光には今年もあたしをネタに一本書かせちゃったよ」
「あはは。困った時のカグヤ頼みなんじゃない? KACは過酷らしいから。ぼくたち意外と、藤光から頼られているのかもしれないね」
「ふん。ここのくだり、1行も地の文を入れてこないところを見ると、少しは恥ずかしいと思ってるのかもね。まあいいわ。この後、傑作をモノにして吠え面かかせてやるんだから」
「え、ひさしぶりに小説を書くのかい。あこがれる力を取り戻せたの?」
「ツクヨミ〜。これまであたしが自分を信じられないなんてことあると思う? あたし常にアイアムNo. 1かつゴーイングマイウェイよ。書いて書いて書きまくるわよ〜」
「……元気になったのならいいよ。藤光、ありがとう。カグヤは元気になったみたい。またいつか会おうね」
こちらこそ。また
(了)
かぐや様は小説家 ―憧憬編― 藤光 @gigan_280614
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