思い出のつもりでした
優月紬
第1話
目が覚めると、隣でイケメンが寝ていた。私はそのイケメンの顔を確認し、頭を抱えた。
「……やってしまった」
来月転勤になることが決まっている、上司の春山さん。私がずっと、密かに憧れていた人。
少しずつ頭が働くようになってきた私の脳裏に浮かぶのは、昨夜のこと。何も覚えていなければ良かった。だけど、私は最初から最後まで
、全部覚えている。春山さんの熱と、私の熱が溶け合ったことを。
私、多分酔った勢いで告白してる。その後、思い出をくださいとか何とか言って、それで。
「あれ、岬、起きてたの?」
隣から突然声が聞こえて、私は驚いて彼の方を見る。
「……岬の寝顔、見そびれちゃったな」
春山さんは、私を愛おしいものでも見るような目で見つめた。やめてほしい。勘違いしてしまいそうだから。
「おいで」
「へ?」
私は、春山さんに引き寄せられ、彼の胸にすっぽり収まってしまった。これでは、逃げたくても逃げられない。
「俺の気持ちは、伝わった?」
春山さんが何を言っているか分からず、私はただキョトンとした。
「告白してくれただろ、覚えてないの?昨日のこと。俺は覚えてるよ。岬の全部」
春山さんは私の背中をツーッと指でなぞり、不敵に笑った。
思わず吐息を漏らしてしまったけど、彼の腕の中に閉じ込められているせいで、逃げることはできない。
「思い出とか、一夜の過ちとか、そんな風に思ってないよな?連れていくからな。岬のこと」
「……え?」
「俺も好きだったよ、ずっと。岬のこと、好きだよ」
春山さんは私の頭を撫でながら、甘い声色で好きだと私に繰り返し告げた。
「さて、そろそろ行くか」
「へ?」
春山さんは、突然私を解放し、いきなり起き上がって歩き出した。
「早く出さなきゃ、婚姻届。昨日これも書いただろ」
「え!?」
それは、覚えてないです。そう言いたいのに、春山さんが仕事の時のように有無を言わせない態度で言ってくるから、どうも反論できない。
「返事は?」
「え、あ、はい!」
この日の出来事全てが、彼の手により最初から計画されていたものだと私が知るのは、もう少し先の話。
思い出のつもりでした 優月紬 @yuzuki_tumugi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。