【KAC20252】あこがれの早乙女さん

ハル

 

 同じクラスの早乙女さんは、私のあこがれのひとだ。私だけではなく、この学校の大半の生徒があこがれていると思うけれど。


 成績優秀スポーツ万能な優等生で、クールでしっかり者で、でもとっつきにくいところはなくて気配り上手。髪は長くてつややかで、目は切れ長で鼻筋は芸能人みたいに通っていて、すらりとした体からは形のいい手足が伸びている。


 少しでも早乙女さんに近づきたくて、私は苦手な数学や化学も一生懸命勉強した。


 早乙女さんと同じ競技に出たくて、体育祭では、足が遅いくせに二百メートル走の選手になった。


 少しでも早乙女さんと話がしたくて、趣味が合うと思われたくて、彼女が好きだという小説や漫画や、彼女が好きだという映画や動画や、彼女が好きだという音楽は、全部読んだり観たり聴いたりした。彼女が好きだという「おさんぽ小ザメ」というキャラクターの缶バッジやシールを買って、バッグにつけたりノートに貼ったりもした。


 でも、これはただのあこがれ。恋なんかじゃない。私たちの年頃では、同性にあこがれることも珍しくないんでしょ?


 もっともっと、早乙女さんに近づきたい。早乙女さんとの共通点が欲しい。


 だから、早乙女さんが三組の藤原君と付き合いはじめたと知ったとき、私は藤原君に接近した。さりげなく「藤原君に気がある」アピールをして、早乙女さんのちょっぴり良くない噂をでっちあげて吹きこんで、こっそり二人きりで出かけたりもした。早乙女さんには遠く及ばないけれど、私だって見た目は悪くないほうなんだ。


 結果、付き合いはじめて数ヶ月で、早乙女さんと藤原君は別れてしまった。


 藤原君は私に告白してきたけれど、もちろん私は断った。早乙女さんと付き合っていない藤原君に、興味なんてない。


 そう、私は早乙女さんに近づきたいだけ。早乙女さんとの共通点が欲しいだけ。


 嫉妬してるわけじゃない。早乙女さんには藤原くんと……ううん、他の誰とも付き合ってほしくない、なんて思ってるわけじゃない。私だけを見てほしい、私だけと仲良くしてほしい、私だけのものになってほしい、なんて思ってるわけじゃない。


 ――だって、これはただのあこがれ。決して恋なんかじゃないんだから。



〈了〉

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