現実社会の不条理とか、正体の掴めない茫洋とした感じ。そんな一場面を垣間見たような心地を覚えました。
主人公は「名鳥ヒカル」というアイドルの「推し活」に人生を捧げている。親衛隊長と認識され、誰よりも彼女を知り、誰よりも古くから彼女を推しているという自負がある。
それは間違いのない事実のはずだった。なんといっても、ヒカルというのは自分が作り上げた架空の存在なのだから。
しかし、ある時に一人の人物がSNS上で絡んできたことで事態が急変する。
その名も、「推しを学ぶ」。一定以上の年齢の人間ならわかる、ヤバさを臭わせた名前の持ち主!
この先の展開は、不条理系のホラーとして読み解くことも出来そうだと感じました。
同時に、アイドルや芸能人などの世界には、割と似たようなことも起こっているのかも、という社会派的な雰囲気も。
アイドルとは偶像。実際の人間がベースになっているが、人々が見ているのは本人とはかけ離れた「イメージ」に過ぎないのかも。だったら、ベースになる人間なんていようがいまいが変わらないのでは?
そんな「イメージ」だけの存在だったアイドルが、思わぬ事態を迎えることになっていきます。
一種の社会風刺も含む、不条理な出来事。
小説などの著作物なら「著作権」があるけれど、「妄想の中のアイドル」にその権利は認められない。そういう存在を「盗作」されたら人はどんな気持ちになってしまうのか。
そんな「IF」を提示されたようで、強く好奇心も刺激される作品でした。