あこがれ

もと

あこがれ

132:本当にあった怖い名無し:2009/12/03(木) 03:48:38 ID:i8XtSQs10


初カキコ…ども…


俺みたいな中3でグロ見てる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは


今日のクラスの会話

あの流行りの曲かっこいい とか あの服ほしい とか

ま、それが普通ですわな


かたや俺は電子の砂漠で死体を見て、呟くんすわ

it’a true wolrd.狂ってる?それ、誉め言葉ね。


好きな音楽 eminem

尊敬する人間 アドルフ・ヒトラー(虐殺行為はNO)


なんつってる間に4時っすよ(笑) あ~あ、義務教育の辛いとこね、これ


 ――越えられないからこその憧れ。

 この美しさ、このコピペから得た衝撃は僕をいや俺を貫いた。真似したい、出来ない。後を追いたい、追えない。まさにレジェンド。

 それに比べて、なんだこの体たらくは。


『名前:山本ふう (やまもとふう)

あだな:特になし

名前の由来:名前は親がつけた。平仮名なのは大人になった時に自分自身に似合う漢字を当てはめろ、決めた漢字があればその字に恥じぬよう生きればいい、みたいなことを聞いたことがある気がする。つまり自由だ。

血液型:AB(マイナス)

誕生日:二月十日の丑三つ時

趣味:音楽を聴くこと(ロックとヴィジュアル系)

座右の銘:紅に染まったこの俺を慰める奴はもういない』


 提出期限は明日の朝までだ。こんなに凄い物を知ってしまうと、こんなの、これ、僕が俺が書いた自己紹介なんて普通で平凡でゴミでカスでウンコに見える。指でつまんでピラピラしてみる。小さな紙っ切れにオレの全てをレジェンドのように鮮やかに表現するには……どうすりゃいいのさ?

 毎年毎年、学年が上がってクラスが変わる度に書かされる自己紹介。いつも適当に済ませてたのに、このコピペを知ってしまったばかりに身動きが取れなくなってしまった。

 名前の由来? なんかもうここから変だ。言葉がやたらと重複してるような、『つまり』で繋がってんだか繋がってないんだかもよく分からない。

 血液型は(マイナス)とか付けると珍しいからカッコいい。多分これでいい。誕生日はどうだろう? 2/10って書いた方がいいか? でも丑三つ時の『三』が漢数字だから揃えたいよな。趣味……音楽鑑賞とかにしとくか? 突っ込まれたら面倒だしどうせ誰も知らないし他に特に、趣味……バンド名まで書くか。そしたら話かけてくる奴もいないだろ、いやでもな、去年はコピペを知らなかったのに『X JAPAN』と『R指定』って書いたら目カクレ女子が寄ってきたんだよな。それはそれでまあ、いや面倒だったな、あれは。ライブなんて誘われても金無いし服無いし怖いし行けないっつーの。しかもXはやって無いし指定は活休だってのに全然知らないバンドのライブとか行けるかっつーの。座右の銘は、まあもう5年ぐらい同じこと書いてるし何も言われないから完璧。

 ああ、じゃあ名前の由来と誕生日と趣味、書き直すか。どうすっかなー……。


「ねえ、ふうさんはUFOとか興味あるんだ」

「ちょ?! い、まあ、フフフ」

「ウチさ、兄貴が昔ハマってて月刊ムーが大量にあるんだけど読みにくる?」

「おふ?! む、ムー? あ、いや、そんな、まあ」

「うん。じゃあ一緒に帰ろう」

「かっ?! は、は、はいまそっすね」

 どうすっかな……! 小学校の頃からイケメンなミヤノ君に話しかけられてしまった。初めてかも、初めてだよ、いつも視界にすら入ってなさそうだったんだから想定外だ。趣味の欄に『音楽鑑賞 未確認飛行物体の観察(超常現象はNO)』って書いたらこれだよ、やっぱレジェンドの自己紹介は凄い。真似とパクりは駄目だとオマージュとして無理矢理付け足したのに、こんなイケメンまで惹き付けるとは。いやそれよりムーって立ち読みしかしたことないんだけど、ライトなオタクって思われちゃったらどうすっかな?

「みんなの自己紹介、面白かったね。ふうさんもちゃんと人に興味あったんだね、全員分みてたでしょ」

「きょ、は、はあ」

「ていうか、ああいうので名前の由来なんて初めて聞かれたかも」

「な、でゅふん」

「ふうさんの、『風(ふう)のように自由に、なんて、はは』って一番面白いよ」

「そっ」

 はいそれもオマージュでして! はい! 書いて良かった! レジェンド、貴方のおかげで中学二年にして初めて友達が出来そうです!

「あ、ウチここ」

「うっ、はあ」

「ただいまー。あ、親は仕事でいないから気楽にどうぞ」

「お、おっじゃましま」

「兄ちゃーん、ムー貸してー」

「みっ、はっ、おっじゃましてま」

 ミヤノ君のお兄様! はじめまして! 大きいですね! いかつい! あ、お兄様のお友達三名様もはじめまして! わたくしミヤノ君の同期生の山本ふうと申します!

「アアン? てめえムーとかいつの、バカじゃねえの? 殺すぞ?」

「アニキの黒歴史掘り起こしてやんなよ」

「ウケる」

「ムーって何?」

「ごめんごめん、この子が好きみたいでさ。貸してよ」

「アアン? タダじゃねえぞ? ヤラせろよ」

「やっ?! は、はあ」

「いいみたいだよ。だからついでにこないだの五千円チャラにしてよ兄ちゃん」

「アアン? しゃーねえなー、可愛い弟よ」

「兄ちゃん大好きー。あ、この子ふうさん、ヨロシクね。あ、飲み物とか持ってくるよ」

「の、ぼくは、い、あっ」

 ミヤノ君がいなくなった途端にスカートをまくられパンツを脱がされお兄様が持っている中で一番古いという2000年の一月号を顔に被せられた。僕は私は俺はオレはそんなにUFOが好きじゃない。いま知った。僕は俺はなんかこうアッという間に、あれよあれよという間に、あっさりとこざっぱりと処女ではなくなった。私は普段からヴィジュアル系で勉強していた。色んなことを教わったんだ、心の保ち方は得意だ、大人にオトナに大人のオトナのオンナになったんだ、こんなことで僕は動揺しない。こういうこともあるだろう、人生は長いんだから。

「あ、終わった? ふうさん家まで送ろうか」

「お、あ、まあ」

 それにミヤノ君と友達になれたんだから、これ以上のことは無いんだ。レジェンドはやっぱり凄い。自己紹介ひとつで僕の人生が変わった。

「ごめんね、大丈夫だった?」

「だ、はあ」

「ふうさん、ボクっ娘なんだね。兄貴達すげえ喜んでたよ」

「ぼ、はあ」

「もし良かったらまたウチおいでよ」

「ま、はあ」

「じゃあこの辺まででいいかな? そこの角曲がったとこのコンビニ、みんながよく使うからさ、見られるとアレだし」

「み、はあ」

「んじゃまた明日、学校でね。バイバイ」

「ば、ンフフ、ばいばい」

 ずっとユサユサされながら読んだ活字は頭に全く残ってない。CGで描かれた宇宙人が手を振っている。

「『it’a true wolrd.狂ってる?それ、誉め言葉ね』……ンフフッ」

 ジンジンしてる股からドロッとした塊が出た感触がする。宇宙人にさらわれた後と同じかも知れない。

「『あ~あ、義務教育の辛いとこね、これ』……フンッ」

 さっきムーを抱えて起き上がった時、生理二日目に一時間振りに立ったドバッと感、あの血の量ぐらい出たのに、四人分の精子は全部出たと思えるぐらい出たのに、まだ残ってるらしい。最後の細長い顔のお兄様のお友達の精子だろう。人体の不思議、もっとちゃんと教えといて欲しい。


 そうか、世界は滅亡するのか。ミヤノ君のお兄様から譲ってもらったムーは三十冊を越えた。

 ドアの向こうの世界では母親が泣き喚き父親がアタシの名前を呼んでる。鍵は開けない。向こうの世界は滅亡する。僕の部屋の中の世界は安全。ポコンとお腹の中を蹴って返事をしてくるようになった赤子は救世主か、恐怖の大王か。どちらにしろ俺はその母としてこの世界に君臨する。最強で最高にアツい。レジェンド、貴方のおかげです。

「『it’a true wolrd』! 貴方はノストラダムスより凄い預言者デス! 余の全てを捧げても足りない程の――」

「ふうちゃん! もうそれもうやめてもういやお願い!」

「病院へ行くぞふう! 今日は検診だろう! もう怒ってないから! 心配なだけだから!」

「――騒がしいな。我の意は伝えたであろう!」

 今日はミヤノ君の家にお呼ばれしている。さっき届いたLINEには動画もついてた。バラまかれたくなければ時間通りに来い、とだけ書いてある。別に全世界に公開してもいい。私がムーを読みながら処女膜を失うだけの動画、二回目のお呼ばれ、三回目も何十回目もダイジェストにしてくれている。

 全ての愚かな民に見せつけてやるといい、この奇跡を。俺が全てを手に入れた瞬間を、クラスの女子共がまだ経験もせずにキャアキャア言ってる行為をいとも簡単にこなした瞬間を、見せつけたい。

「『俺みたいな中3でグロ見てる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは』……俺みたいな中2でセックスしてる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは……はは、ンフフフフフッ」

 僕は大人なんだ。あの教室で誰よりも大人で女で神、そうかなんだつまりただの女神か。たしかオオノ君か誰かも言ってた、腰を振りながら「マジで神」って、多分私に言った、アタシの頭に紙袋を被せたミヤノ君に言ったかも知れないけど、神なのは僕だから多分俺に言った。

 誰でも受け入れる、それが余のつとめ。

 ドアの外の世界を救うも滅ぼすも、アタシの匙加減ひとつでどうにでもなる。なのにみんな知らない、みんな見てない、特に女子、服とかメイクとかろくでもない話しかしない女子、オレの凄さを知らないなんて、お前らとは違う、ぜんっぜん違うんだよ! 私は処女じゃない! これから救世主か魔王を産む! 僕はお前らとは格がちげーんだよ! 目カクレ女子! サエキさん! さよなら! ホントはちょっと楽しかった!

 さあ電子の砂漠よ、我の孕む様をとくと見よ! 民よ拡散せよ! これが終末の始まりだ!

「ふうちゃん!」

「ふう!」

「『あ~あ、義務教育の辛いとこね、これ』……ンフフフハハハアハハハハハハヒヒヒヒヒッ」




  おわり。

 

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