【短編】ぴー太とぴー助のひなまつり【児童文学風】

山本倫木

KAC20251 ひなまつり

 ていねいなお日さまがふりそそぎ、おにわの雪がみんな無くなってしまったある日のことです。ひよこのぴー太とぴー助がおにわで遊んでいると、あかりちゃんが学校から帰ってきた声がしました。


「ただいまー。おかーさーん、きょうのおやつはー?」


 あかりちゃんは、いつも、おやつを楽しみに帰ってきます。


「おかえりー。先に手を洗ってらっしゃい。ひなあられ、出しておいてあげるから」

「やったー、あしたはひなまつりだもんね」


 ばたばたと、あかりちゃんがせんめん所に走っていきます。


「ぴー助、今の聞いた?」

「お兄ちゃん、今の聞いた?」


 ぴー太とぴー助が、ふしぎそうな顔を見合わせます。


「ひなまつりだって」

「お兄ちゃん、知ってる?」


『ひなまつり』。初めて聞くことばだけれど、なんだか楽しそうなひびきです。


「いいや、聞いたことないや。だけど、きっとのおまつりだよ」

「ひなってなあに?」


 ぴー太はぴー助よりも、7日もお兄ちゃんです。それだけたくさん、あかりちゃんのお話を聞いているので、ぴー助の知らない言葉もたくさん知っています。


「ひなっていうのは、子どものトリの事だよ」

「じゃあ、ぼくたちのことだね!」


 ピー助は目をきらきらさせました。


「うん、そうだ。きっと『ひなまつり』はぼくたちのおまつりだ!」


 これは大ニュースです。二人はさっそく、にわとり小屋にかけこみます。


「お父ちゃん、お母ちゃん!」


 お父ちゃんは、おわんをつついてごはんを食べていました。お母ちゃんは、わらのお布団でたまごを温めています。


「どうしたの、ぴー太、ぴー助。そんなに走ってきて?」


 お母ちゃんは、首を伸ばして二人に尋ねます。みっしりと生えている、ふかふかの羽がとてもあたたかそうです。


「あしたは『ひなまつり』なんだよ!」

「ぼくたちのおまつりなんだよ!」


 ぴー太とぴー助は口ぐちにさけびます。にわとり小屋は、はるの小川みたいにさわがしくなりました。


「お前たちのおまつりか。それじゃあ、何かするのか?」


 お父ちゃんが尋ねます。りっぱなとさかが、ふわりとゆれました。


「「うーん」」


 二人は考えこみました。ほんとうのところ、何をするかなんて考えてもいませんでした。でも、せっかくの『ひなまつり』です。ちょっと、とくべつな日にしたいものです。


「じゃあ、ぼくたち、あしたはお父ちゃんみたいにする」


 ぴー助が言いました。ぴー太はびっくりして、まだ黄色い羽毛しかないぴー助の顔をながめました。


「お父ちゃんみたいに、お日さまにおはようして、お外でも食べるものを探すの!」


 ぴー助は一生けんめいにうったえます。ぴー助の考えは、たいそうすてきなもののように、ぴー太にも思えました。


「そう。じゃあ、二人ともあしたはがんばらないとね」


 お母ちゃんが、にっこりと笑いました。

 その日の夜は、二人はあしたが楽しみでなかなか眠れませんでした。





「朝がきたぞー」


 お父ちゃんがぴー太の耳元でささやいたとき、あたりはまだ夜でした。あたりを見渡しても、うす暗くて、なんとかものの形が分かるだけです。お母ちゃんも、まだ眠っています。


「きょうは、ひなまつりだぞー」


 次に聞こえたお父ちゃんの声で、ぴー太はガバリと飛び起きました。

 そうだ、きょうはぼくたちの日だ!


「ぴー助! 起きろ!」


 ぴー助も目を開けました。でも、まだ半分ねむっていて、今にもゆめの世界におっこちてしまいそう。


「きょうは、ひなまつりだぞ!」


 ぴー太の声で、ぴー助もムクリと立ち上がりました。もう、目がぱっちりと開いています。二人は声を合わせて叫びます。


「「きょうは、ぼくたちの日だ!」」


 二人の声に合わせるように、あたりがぱあっと明るくなりました。お日さまが顔を出したのです。


「「おはようございます!」」


 二人は力いっぱい、高らかにお日さまにあいさつをしました。お父ちゃんみたいに、遠くまできこえる声だ、とぴー助はほこらしく思いました。あかりちゃんの家は、ぼくたちの声で朝が来るんだ、とぴー太はとくいになりました。



 

 その日は、二人はお父ちゃんに並んで、土をつついてみました。お父ちゃんが、おにわの木の周りの土をつつくと、生まれたばかりのミミズや小さな虫たちがすぐに見つかります。お父ちゃんは、見つけた虫をすぐに、ぱっとつかまえました。


「むずかしいね、ぴー助」

「うん、むずかしいね、お兄ちゃん」


 二人もお父ちゃんのマネをして、虫をつかまえようとしますが、うまくいきません。土は固くてなかなか掘れないし、草の上に虫を見つけても、あっという間に逃げられてしまいます。もっと、やわらかい土だったらいいのですが。


「そうだ!」


 ぴー太がぴょんとジャンプをして、花だんにふみ込みました。花だんの土をつついてみます。思った通り、とってもふかふかのやわらかい土です。


「お兄ちゃん、そんなとこを掘ったら、あかりちゃんに怒られるよ」


 ぴー助の心配そうな顔に、ぴー太はニカっと笑いかけます。


「怒られないよ。だって、きょうはひなまつりなんだもん」


 そうです。きょうは、ひなのおまつりの日です。ひよこが怒られるはずがありません。ぴー助も、ぱっと笑顔になると、ジャンプして花だんに飛び込みます。

 花だんの土には、小さなみみずがたくさんいました。土を掘り返してみると、かんたんに見つかります。二人は宝さがしに夢中になりました。





「ただいまー。ひっなあっられ!」


 お家から、あかりちゃんの声がしました。いつの間にか、あかりちゃんが学校から帰ってくる時間になったみたいです。


「おかえりー。手を洗ってらっしゃい。ひなあられ、ちゃんとあるから」


 あかりちゃんのお母ちゃんの声もします。あかりちゃんは、はーいとお返事をすると、ばたばたとせんめん所に走っていきます。


「あかりはひなまつり、好きねえ」


 ひなあられを出しながら、あかりちゃんのお母ちゃんは言います。


「うん! だって、おんなのこのおまつりだもん!」


 あかりちゃんの楽しそうな声が、お家の中からひびいてきました。




「ぴー助、今の聞いた?」

「お兄ちゃん、今の聞いた?」


 ぴー太とぴー助は、おどろいて顔を見合わせます。


「ひなまつりは、おんなのこのおまつりだって」

「ぼくたち、おとこのこだよ」


 どうしましょう。ひなまつりは、トリの子どものおまつりの日ではなかったみたいです。二人はあわてて、にわとり小屋にかけこみます。


「お父ちゃん、お母ちゃん!」


 お父ちゃんは、羽のお手入れをしているところでした。お母ちゃんは、わらのお布団でたまごを温めています。


「どうしたの、ぴー太、ぴー助。そんなに走ってきて?」


 お母ちゃんは、首を伸ばして二人に尋ねます。どっしりとした体が、とてもあたたかそうです。


「ひなまつりは、おんなのこのおまつりだった!」

「ぼくたちの日じゃ、なかった!」


 ぴー太とぴー助は口ぐちにさけびます。にわとり小屋は、はるの野原みたいににぎやかになりました。


「おんなのこのおまつりか。それじゃあ、何かするのか?」


 お父ちゃんが尋ねます。まっしろな羽が、ぴかぴかとかがやいています。


「「うーん」」


 二人は考えました。なにしろ、おんなのこのおまつりです。ぴー太とぴー助にとって、おんなのこと言えば、きまっています。


「お母ちゃんの日にする!」

「お母ちゃんのお手伝いをする!」

 

 二人はいっせいに叫びました。


「あら、お手伝いをしてくれるの?」


 お母ちゃんがにっこりと笑います。


「じゃあ、こっちへいらっしゃい」

 

 お母ちゃんが立ち上がりました。わらのお布団の上には、大きなたまごが1つ、ころんと転がっています。


「いっしょに、たまごを温めてくれる?」


 ぴー太とぴー助は、ぱあっと笑って、お母ちゃんのおなかに飛び込んでいきました。お母ちゃんのおなかは、ふかふかで、とってもあたたかです。二人は、たまごをはさんですわりました。たまごに体をくっつけると、たまごがひとりでにぐらぐらとゆれているのが分かります。


「いま、たまごが動いたよ!」

「中にだれかいるよ!」


 ぴー太とぴー助はびっくりしました。


「そうよ。ぴー助ももうすぐ、ぴー太といっしょのお兄ちゃんね」


 お母ちゃんが、ぴー太とぴー助とたまごをいっぺんに温めながらおしえてくれました。

 ぴー太とぴー助のひなまつりは、とくべつな日になったようです。





【おしまい】

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