ヒナまつり ~とらわれた親友の話~
篠騎シオン
飯、ちゃんと食ってるか
「おい、入るぞ~」
そう言いながら、俺は親友の家の玄関を押し開ける。
開け放された鍵。
乱雑に脱がれた靴とゴミの山。
部屋の中もすこし埃っぽい。
この期間はいつもそうだ。
俺の親友は、年に一度おかしくなる。
3月の、いつもきまってこの時期だ。
こいつは毎年カクヨムのKACというイベントにとらわれる。
寝て起きて書いてそれから読んでまた書いて。
一年の有休をすべて使い果たして、こいつはKACに何かを捧げている。
正直、何のためにこんなことをやっているのか俺にもよくわからない。
対して金にもならず、もらえるのもよくわからないトリのキャラクターグッズ程度。
しかもこいつの部屋にはすでに複数個並んでいる。
生活を崩して毎年の有給ラッシュのせいで昇格も棒に振り、そこまでして何を得たいのか。はたまた得ているのか。理解しがたい趣味だ。
でも、そんな親友に差し入れをしてやるのが毎年の俺の大事なミッションなのである。
ほっとくと、飯も食わずに読みまくる書きまくる妖怪と化して5年前には緊急搬送された。
そんなことで、忙しい行政の皆々様に再び迷惑をかけるわけにはいかない。
うんうんとうなずきながら、俺はリビングへのドアに手をかけ開け放す。
「おい。飯、ちゃんと食ってるか?」
そして目の前に広がった光景に。
あり得ないはずの光景に俺の口はぽっかりと開いたままふさがらなくなる。
そこには、大量の小鳥たちがいた。
なんだろうかよくわからない、とにかく白くて可愛らしい何かの小鳥が友人の回りを歩き回っていた。
くちばしからしてフクロウだろうか。
俺は目をこする。
夢か何か見ているのか。
……必死にこすっても消えない。
慌てて窓を開けにかかる。
夢じゃなければ幻覚剤かもしれない!
「おい、ちょっとやめろよ。ヒナたちが逃げるだろ」
窓を開けようとした俺を親友が止めてくる。
反抗したが奴の意志は固く力も強い。窓は諦めて俺は親友の両肩を掴んでゆする。
「おいなんだよこれ絶対正常じゃないって。お前何かやってるだろ」
掛け声が聞こえてきそうな様子で、小鳥たちはまだ歩き回っている。
「やってるってKACの期間中だよ。毎年差し入れに来てくれるじゃないか」
そう言った瞬間、親友の頭から小鳥がモゾモゾ這い出してきて床にふんわり着地する。
いやいやいや、羽もしっかりしていないのになぜ安全に着地できる。
……じゃなくて、くそぅ、俺も毒され始めてないか、それにしても可愛い。
じゃなくて!!!
「おいお前、今頭から鳥が出てきたぞ。どうなってるんだ」
俺は親友の頭をがっとつかんで確認する。
異常はなさ……いやいや待て待て、頭頂部から小鳥が生えてきてるって、うわ、なにこれ、どうなってるんだってさすがにキモイって……
「どうって、ただ単に小説のアイディアを考えて、ヒナだらけになってるだけだけど? 今回のテーマにも関係しているしね」
さも当然のように言うな。
――え、いや、本当にどういう状況?
小説のアイディアがヒナ???
よく見ると小鳥たちは、子供たちがつけるような名札シールを胸あたりにつけている。
これがアイディアってこと?
なるほど……いやなるほどじゃなくね??
「あ、ちょっと待って。きそう、書けそう!」
そう言って親友はPC前に張り付き、何匹かの小鳥は輪になって踊りだす。
俺はこのカオスな状況についていけず、へなへなと座り込む。
小鳥たちはそんな俺に構わず、周囲を歩き回りつづける。
カタカタと響くタイプ音。鳥たちの足音、羽の音。
親友の頭からは定期的に小鳥が出ては、輪に加わっていく。
アイディアがたくさん出ているんだろう。
やがて小鳥たちの動きは激しくなっていき、「これで完成っ!!」親友の声と共に聞こえたエンター音をきっかけに、まばゆい光をまとう。
光に思わず目を閉じ、次に目を開けた時には目の前にトリが降臨していた。
「は?」
「やった、トリの降臨までたどり着けるなんて、今日の僕は運がいい」
その鳥は、あのカクヨムのキャラクターのトリそのものだった。
トリは俺らにウィンクをし、それからPCの中に吸い込まれるように消えていった。
周囲を見渡すと、白い小鳥の数が減っていた。
トリは小鳥を生贄に召喚されるものなのだろうか。
それとも合体して大きなトリに?
いや、そもそも同じフクロウとは言え、種類が変わって……
「あーーーー。もうわかんね!」
俺は、親友の家から飛び出す。
わけがわからな過ぎて、走って走ってペットショップに駆け込み。
「すみません、メンフクロウの赤ちゃんって何食べますか?」
開口一番、店員さんにこう聞くのだった。
ヒナまつり ~とらわれた親友の話~ 篠騎シオン @sion
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