ダンシング祭
先崎 咲
織田と徳川
熱狂の中、ある部屋で、二人の男が見つめ合っていた。片方はツリ目の男、片方はタレ目の男だった。両者ともに靴は履いていなかった。
「いけ! 織田! これがラストだ!」
「負けるな徳川! お前なら勝てる!」
二人の周囲には声援と共に囲むように男たちがひしめいてる。ツリ目の男は織田と呼ばれ、タレ目の男は徳川と呼ばれていた。
「両者、準備はいいか」
織田と徳川、二人の間に居た男が手を上げて訊いた。どうやら、審判のようだった。
舞台は白く、二人の視線は熱い。二人は審判に向かって頷いた。
「天下をかけて、Let's dance !!」
審判が叫ぶと同時に手を振り下ろした。そして、その空間にアップテンポな音楽が鳴り始めた。
同時に織田と徳川が踊り始めた。
織田はスピード感のある荒々しいストリートダンスを踊り始めた。はじめから力強くステップを踏むことで、リズムとの一体感がある。
一方の徳川はゆっくりとしながらも緩急をつけたフィギュアスケートのようなダンスを踊り始める。手先までが計算された美しさをもって表現している。
「「「おおぉ」」」
彼らの周りの観衆は、二人のダンスに釘づけだった。会場のテンションは曲と共に、最高潮に達しつつあった。
そんな中、部屋に一人の男が慌ただしく入ってきた。
「報告、報告~!!」
「……なんだ」
織田が訊いた。
「せ、」
「せ?」
「先生が、来ます!」
ざわつく室内。織田と徳川のまわりにひしめいていた男たちは部屋中に散らばっていく。
「どけた布団戻せ!」「審判は音楽止めろ!」「シーツはどうせ布団で見えないしそのままでいいよな」「電気消せよバカ!」「騒ぐなバレる」「お前も黙れ」
「しずまれ~い!」
ぴたりと声が止む室内。その視線は声の主──織田に向いている。
「……言ってみたかっただけ」
「「「馬鹿!」」」
そうこうしている内に、部屋にもう一人男が入ってくる。それは、もともと部屋にいた男たち──十代後半くらい──とは、年代が大きく異なっていた。具体的に言うと四十代くらいだった。
「お前たち、何かおかしいことをしてないだろうな……?」
唸るように元々部屋にいた男たち──というより青年たちだが──に聞く男。しかし、青年たちは布団にくるまり堂々と言った。
「何もしてません」「俺たちは無実です」「明日こそ木刀買います」「どうして修学旅行の宿泊先の部屋ってトイレないんですか」「うんこする権利の侵害だ」「先生のせいで眠れなくなりました」「あとちょっとのところまで眠気来てたのに」「充電したいのにコンセント足りん」
先生と呼ばれた男は、部屋を見回すとさらに言葉を重ねた。
「それにしては布団がぐちゃぐちゃだが」
「寝相です」「先生が起こすのが悪い」「男子高校生なんて寝相が悪くてナンボでしょ」「先生のエッチ」「綺麗は汚い、汚いは綺麗っていうでしょ、それです」
「……敵は、本願寺にあり?」
「……それを言うなら本能寺だ。織田、お前まだ信長っぽいことを言う罰ゲーム続けてたのか」
先生は織田の言葉に毒気を抜かれたのか溜息を吐いた。
「とにかく、明日は早いんだ。修学旅行だからと言って、羽目を外しすぎないように!」
「「「は~い」」」
そう言うと、先生は部屋を出ていった。しばらくの無言。そして、一人の男が、枕を振り上げ、宣言した。その男は先ほどの審判だった男だった。
「よし、天下無双ダンス選手権の続きをやるぞ~」
「「「お~!」」」
「名前、変わってね?」
こうして、修学旅行の夜は更けていく──。
ダンシング祭 先崎 咲 @saki_03
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