ひなまつりの奇跡、いえそれは呪いです
よし ひろし
ひなまつりの奇跡、いえそれは呪いです
また今年もこの日が来た。
三月三日のひなまつり――
私は仕事を休み、朝からひとり準備を整える。
ちらし寿司にはまぐりのお吸い物、ひし餅、ひなあられ、甘酒、そして娘のために用意したケーキ。リビングのテーブルに料理を揃え、私は雛飾りの前に進む。
五段飾りの立派な雛飾り。妻の家に代々伝わるもので百年は経っているのではないかといっていたが、真偽のほどはわからない。私はその最上段、お内裏様とお雛様の両横に立つ
柔らかな光が揺らめき、そして――
「パパ、何してるの、早く食べよう」
「あなた、さあ、座って」
娘と妻の声。振り向くと、寸前まで誰もいなかったテーブルに笑顔の二人の姿が現れる。五年前に死んだ娘と妻が、あの時の姿のまま――
「ああ……」
今年も来てくれた――
涙がこみあげてくる。しかし、ここは我慢だ。ひなまつりに涙は似合わない。
「パパ、ケーキから食べていい?」
「ああ、いいとも」
「ちらし寿司も食べるのよ」
「はーい」
優しい時間が流れる。
ああ、至福の時。このまま時間が止まってしまえばいいのに……
「どうしたのパパ、変な顔をして?」
「甘酒、飲まないの。あなた好きでしょう?」
「――何でもないよ。さあ、私も食べるぞ!」
楽しもう。一年に一度の僅かな時間を。
食事をしながらおしゃべりをする。その内容はいつも変わらない。分かっている。彼女らに新しい記憶はない。話す内容は五年前のままだ。
それでも楽しい。そう楽しいはずだが――
「……」
何故か、涙がこぼれていた。頬を生温かなモノが伝わる。
そして――……
雪洞の灯りが消えた。同時に二人の姿も消える。
「ああぁ……」
ひなまつりの奇跡――雪洞に灯りをともすと、五年前、今日この日に交通事故で亡くなった二人が戻ってくる。あの日にもここに飾ってあった雛飾り。私にとってこれが二人の仏壇。この場所はあの時からそのまま。雪洞には毎日火をつけているけど、二人が戻るのは今日この日だけ。それも一度のみ。もう一度ロウソクに火をつけても二人は戻らない……
「また来年、来年か……」
一年頑張ろう。二人に会うために、生きていこう。そう、また来年のひなまつりのために――
おしまい
ひなまつりの奇跡、いえそれは呪いです よし ひろし @dai_dai_kichi
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