第3話 関西人を過信した

 中学の頃にですね、学校で漫才を披露する機会があったんですよ。


 男三人で出し物を発表しないといけなくなって、お前がいるならお笑いだろ、と言われまして。


 実は私、その頃、落語にメチャクチャはまってたんですよ。


 で、そのノウハウを活かして、クラスメイトをよく笑わせてたんですね。


 だから、クラスメイト達はとんでもなく期待してたんです。私も自分がネタを作るつもりだったし、皆そう思ってた。


 しかし、ですね。そこで男三人組の中の一人、関西から来た転校生が強烈に自己主張をはじめたんです。


 俺はお笑い得意やで。関西人やし。生まれた時からお笑いを浴びてきたで。関西人やし。


 だから、俺にネタを書かせてくれ、と。


 まあ、我々も頷きました。関西人=お笑いのプロ。確かにそういったイメージはある。


 当日までネタを考えとくから期待しとけ、と彼は言いました。


 私も馬鹿な男子中学生だったので、合わせの時間が必要なのでは……?なんて思考は欠片も浮かびませんでした。


 とにかく、餅は餅屋。任せたぜ。


 当日、彼は手ぶらできました。


 私達は焦ります。しかし、彼は落ち着いていました。


 俺がメインで喋るから、お前らは上手く合わせればそれで良い、とプロ感を出していて、頼もしかったです。


 え、結果?……死ぬほど滑りましたよ?


 関西では鉄板らしいご当地ネタをいきなりぶつけられて、会場は冷えっ冷えでした。中学生は素直ですね。


 私は人前に立つのが苦にならないタイプなのですが、この瞬間だけは本気でステージを降りたかったです。


 しかも、最悪なのが、皆は私がネタを書いたものだと思ってた事ですよね。


 もう完全に私が滑った感じになってて、居たたまれなかった……。


 今思い返すと、あの関西からの転校生は、日頃から割りと適当な事を言う性格でした。


 私があの時、止めていれば……!


 いや、その後の人生には何の影響力もないイベントですけど、本当に数分間が永遠にも感じたんですよ。


 永遠じゃなかったから、今ここに居るわけですが。時間の流れ、ありがとう。

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