ひなまつりフェアの女の子

ひなまつりのあの子

 商店街しょうてんがいに「ひな書房しょぼう」というおみせがあった。


 ちいさな本屋ほんやさんだった。

 絵本えほんがたくさんあった。

 店主てんしゅのおじいさんはいつもニコニコむかえてくれる。

 おじいさんは絵本にくわしくて。

 ぼくはひな書房のファンだった。


 店名てんめいにもちなんでいるだろう、毎年まいとし「ひなまつり」前後ぜんご一週間いっしゅうかんフェアをおこなっていた。


 商店街のもよおしに便乗びんじょうするようなもので、フェアといってもひなまつりにちなんだ絵本や児童書じどうしょ特設とくせつコーナーにあつめられ朗読会ろうどくかいもあるくらいだった。

 レジよこにはでも、おおきな七段しちだん雛飾ひなかざり。

 あれは立派りっぱだったなあ。

 一番いちばんうえどもにとっては見上みあげるところにおひなさまが。

 男雛おびなはかっこよく。

 女雛めびなはかわいくて。


「おひなさま、き?」


 いつのにか、よこおんなの子。


「そう、かった。うれしい」


 うなずくことしか出来できなくても、彼女かのじょはニコッとわらってくれた。すぐに店主のおじいさんのおおきなエプロンのかげかくれてしまったけど。そこからまたかおして、ぼくにニッコリ。


 きっとぼくの顔はになっていたにちがいない。

 気恥きはずかしくなって、そのげるようにしていえかえった。でもずっと彼女のことがになって気になって。

 翌日よくじつも、そのつぎの日も。

 ひなまつりフェアのあいだ、お店にかよめた。


 彼女はいつもぼくに微笑ほほえみかけてくる、エプロンの陰から。


 フェアがわっておひなさまも片付かたづけられると、あの子もいなくなってしまった。

 お店でまたえるかな?

 学校がっこうで会えるかも?

 でも、どこにもいない。


「本屋さんに女の子? いたかなあ……」


 おかあさんはしばらくかんがえたあと、ぽつりとつぶやいた。


「そういえば、ずいぶんまえに……」


 それ以上いじょうは気まずそうにするだけでなにいてもはぐらかされた。


 翌年よくとしのひなまつり。


 ぼくはまたあの子に出会であった。

 うれしかった。

 去年きょねんおなじ、ひなまつりの一週間だけとおくからながうだけでも。

 笑ってくれるのがただただうれしくて。


 さらに翌年のひなまつりフェアは大々的だいだいてきだった。

 おじいさんはでも、何故なぜさびしそう。

 女の子も寂しそう。


 最終日さいしゅうび


「またね、大好だいすき」


 そういってくれた気がした。


 翌日、お店はまっていた。そのシャッターがひらくことはもうなかった。


「またねって、いってくれたのに」


 ぼくはなみだぬぐいながらお店をあとにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひなまつりフェアの女の子 @t-Arigatou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画