主人公くん成長記、という感じが読んでいてするお話です。
頑張れ! と声援を掛けたいというよりは、周囲と関わる中で少しずつ自分自身を見つけていき変化していく様を、後方保護者面しながら「うんうん」と頷く感じになります、読んでいて。
作中で主人公くんと関わっていく人物達も、強引に手を引っ張ってというよりは、主人公くんの自発的な成長を促すように関わっていく、という感じです。
その分、何か突然劇的に変化が起きてというよりは、少しずつ積み上げながら「自分」を主人公くんは作り上げていく印象です。
そのため激動の展開というよりは、丁寧に話が進んでいく感じです。
その辺りで好みは分かれるかもしれませんが、私は読んでいて面白かったですし好かったです。
序盤を読んだ段階では、(わんこ系奴隷)ボーイ・ミーツ・(公僕系サムライ)ガール、といった感じに進むのかな? という気がしていましたが、前述しているように丁寧に話が進むので、まずは主人公くんが自分自身を見つけ出し、自分を規定することから話は進みます。
まずは自分を。
そこから他者を。
人ならざる道具であることを求められた奴隷として作られた主人公くんが、人となり、そして他者と関わり人間となり物語を紡いでいく。
それはある意味、主人公くんが幻想を創り出す奮闘記であるようにも思えます。
さて、主人公くんは好き幻想を紡いでいくことが出来るのか?
そうした部分も楽しみなお話です。
魔法書庫(ライブラリ)で魔法使いの司書代わりの奴隷として働いてきた少年69。名前ではなく、それはただの番号。人とほとんど繋がることなく過ごし、感情も希薄なまま成長してしまった69ですが、魔法使いである主人は奴隷の買い替えという名目で69を突如として追放してしまいます。こんなにも無垢な少年はどうなってしまうのだろう、と早速プロローグから引き込まれました。
69が追放され転移した先は、なんと現代の日本です。がらりと雰囲気が変わって参ります。ただ、完全なる現代の日本が舞台ということではなく、突如として現れた怪異が存在し、対怪異組織との戦いが日夜繰り広げられる世界観でした。とある出来事により、69は対怪異組織に与することになるのですが……。
冒頭を拝読したところで、頭の中で文字が絵になり、キャラクターが動き、話し始めるかのような、文章全体に圧倒的な解像度の高さを感じました。それに、異世界から来た少年と対怪異組織の面々による、どこかずれていて、おもしろおかしい、わくわくする会話が見ものです。
20話まで拝読したところで、主人公の69ことロックも非常に魅力があると感じました。魔法書庫で得た膨大な魔法知識がありながらも、人との接触経験が極端に少ないというアンバランスさがその要因なのか、冷静に怪異と対話する達観した一面もあれば、世間ずれした感性によって一転してコメディリリーフを務める一面もあります。そのギャップが、ロックというキャラクターの魅力を重層複合的に押し上げているのでしょう。
全体的な印象として、これぞ書籍化作家による現代ファンタジーだと感嘆しました。感情が希薄な奴隷の少年「69」ではなく、一人の人間の少年「ロック」として紡いでいく物語――無料分20話(2025/10/2時点)だけでも存分に楽しめます。この機会にぜひ読んでみてください!
主人公は魔法書庫(ライブラリ)の元奴隷。魔法を知り尽くし、記録する者。
これまで個として扱われたことはなく、だから名前もない。それが突如、主人に売られ、何もかも常識の違うこの怪異の蔓延る幻想浸食国家・日本に異世界人として現れる。
奴隷番号69番、その名もロックとして。
知識や情報ばかり詰め込んで、ついつい頭でっかちになりがちな現代人は、
多かれ少なかれ、みんな誰しも、ロックなのかもしれない。
スマホを握って、つるんとした日常を淡々と生きながら、なんでも知ったつもりになっている。
でも、ほんとうの世界の手触りは、きっとそんなに生半可なものじゃない。
実際、ロックの前にも厳しい現実が次々と立ちはだたかる。
そんな中で彼が出会ったのは、伝承や物語、創作から出てくる幻想の存在、総称”怪異”事件の解決を目的とした組織、ライコウの面々だ。初めのうちこそ、互いに警戒心をあらわにするものの、ロックは、この世界にはなかった魔法の知識と技術を武器に、問題解決にひと役買い、次第に仲間と打ち解けていく。いつしかライコウにとっても欠かせない存在となっていくロック。
その過程で得たのは、本を読み、知識を蓄えるだけでは得られなかった感覚だ。
自分の意志で何かをやろうとすることの多大な労力と引き換えに感じる、無上の楽しさ。
仲間がいる喜び。誰かの力になりたいと願う気持ち。
――つまり、「生きる」ことの圧倒的手ごたえ。
誰かの命令に対して従順であることだけが生きる術だったロックが、自ら意志をもち、自分の人生を始めなくてはならない、と腹をくくるまでがアツい。空っぽだった自分が、夢や願望、やりたいことを持つほかの誰かを助けることによって、初めて、生きてていいのかも、と自身に存在意義を見いだせるようになる。
ここにもう主人はいない。奴隷という立場もない。彼を買う者もいない。
過去を無にするのではなく、今を生きる糧として、役立てる。自分のやりたい事を、自分の意思で見つけようと決めたからには、時には汚れも引き受けて立つ。書庫に閉じこもって穢れから隔絶された無垢な存在では、もういられないのだから。
ただ、ロックは相手を信じようとする心を失わない。
力や魔法だけに頼らず、対話を通して歩み寄るすべがないか探ろうとする。
誰かと繋がり、心を寄せあうことが、時にどんな武器や魔法よりも強いことを、身をもって知ったから。
物語は、読んだ人の希望や夢や願いになるとライコウのメンバーは言う。
翻れば、この物語自体が、砂を嚙むような日常を生きる私たちの羅針盤だ。
自分の人生の舵取りを手放さないことが、いかに難しく、どんなに大事か。
私たちの祈りを背負って、ロックはきっとこれからも、まっすぐに自分の道を歩み続けてくれるのだろう。