第35話 圧倒する剣
――――水曜日 午後 第3闘技場
毎週水曜日、学院は講義を開かないものの、教師陣は各々研究を進めるために学院に出勤している。生徒に関しては、休む者、体を鍛える者、勉学に励むもの、他にも休日に求めるものを満たすためにそれぞれが休日を過ごす。しかし今週は、急遽開催となった一年生候補者選定のための模擬戦がある。模擬戦の観戦を目当てに多くの生徒が学院に来ている。もちろん興味のない生徒に関しては、それぞれの休日を過ごしているわけだが。
ある意味この人にとっても、過ごしたい一日の過ごし方なのかもしれない。
「皆さん、こんにちはー!ご存じ、オットー・レーヴェです!水曜日でありながら多くの観戦者が来ました、今回の一年生候補者模擬戦!レネ・シファー君の一言から始まり、ルドルフ先生の
「では短めに済ませるとしよう。候補者諸君、本日は武闘会ではない。相手を純粋に打ち負かすというだけでは、評価に値しないことを十分理解したうえで戦うことだ。己が強みを相手に捻じ曲げられることなく、力強く押し通すことを主眼に戦ってくれたまえ」
「それではさっそく、ルールについて話していきます!」
――― ルール ―――
1戦目は1対3の個人戦。
相手となるのは人は刻印を使わない一年生3人組。
飛び道具を使う戦士1人と近接戦闘を行う戦士2人の3人組。
戦士に装着させた疑似急所に攻撃を命中させるか、戦士に降参を宣言させる、場外へと追いやる、その他戦士が戦闘不能と判断できる状態になることで制圧とみなす。
候補者はそれぞれ目標を提示し、それを達成するか、3人の制圧をもって終了。
なお、目標から
―――――――――――
「それではさっそく1人目の候補者の戦いを見ていきましょう!1人目はシノザキ流1年、ユーグ・アーヴェント!」
武舞台へ向かうユーグは、まるで覇王を思わせるような、重々しい空気を
「候補者ユーグ・アーヴェントはこの戦いで一切攻撃を回避しないことを誓います」
いきなり大きい目標に会場はざわついた。攻撃をよけない。シノザキ流の刻印術から受ける印象というよりかは、タケイ流のそれに近い宣誓だ。
「では、始めてもらおう」
重々しいルドルフ先生の声を受けて4人の戦士が構える。弓使いは矢を
対するユーグは、片手剣としては少し長めの直剣を、天に向けて顔の前に構える。
「わぁ、やっぱりかっこいいなぁ、ユーグ君。騎士の構え方して。かっこいい。」
ティオが目をキラキラさせている。
「へー、なんか
「ハッハッハ!あながち間違いじゃないぞ。彼は中央貴族の息子だからな」
「パウルも貴族だろうに、なんか違うのか?」
「彼はエレンフェルスを中心とする中央都市の上に立つ貴族だからな、俺の家族のように、彼らから見た田舎にいる貴族は『地方貴族』と呼ばれる。だから、レオンの言う『
「ふーん、なるほどな」
そんな話をしている間もユーグは開始の合図を待つように剣を構え続ける。
ユーグが重しをした
「それでは、勝負開始!」
戦士の一人が丸盾を前方に構えて接近する。後ろに追従する、両手剣を担ぐ戦士。今回の近接戦闘は、この二人。盾持ちが攻撃をいなしながら片手剣でユーグの隙を作り、両手剣の火力をそこに叩き込む作戦だろう。そして、その道中までを牽制するように弓使いが遠距離攻撃を繰り出す。
1対3、障害物もなく、開けた場であれば、まずこの矢をどうするかだろう。格好の的でしかないこの状況で、「避けない」という選択肢は自殺行為。この問題に対するユーグの回答は次の通りだった。
ヒュンと風切り音を立てて飛んでくる矢は真っすぐにユーグへ飛んで行く。
そのまま頭部に命中、装具の刻印が反応して模擬戦終了と思われた瞬間、大きく腕を振り上げ、片手剣で矢を弾き飛ばした。」
尋常じゃない。射手が目視できるとはいえ、意識をそらせば飛んでくる矢を弾き飛ばすという大技をなすなんてできない。
それをまだ学生のうちから自分の技にしているなんて。
「パウル、あのユーグってやつ凄いな」
「驚くのは早いぞレオン。見ていろ。奴の
戦闘が続く中、弓使いの
先制攻撃は盾持ちの突進。丸盾を前方に構え、ユーグの反撃に備えながらまっすぐに突撃する。その後方、ユーグから見てやや左を両手剣が
「やーな攻め方するなぁ」
「どういうこと?レオン君」
「だってよ、完全に人数有利を押し付ける戦い方だもんなコレ。盾持ちの後ろを少しズレて両手剣がきてるだろ?これじゃ腕が3本の怪物と戦うのと変わんねーもん。パウル、ユーグのやつ、これじゃ文字通り手詰まりだろ」
「ああ、だからここからアーヴェント家の戦いが光るのだ」
その言葉を裏付けるように、それは起きた。
ユーグが盾持ちに向かって斬撃を繰り出す。
力任せでもないその剣は盾にぶつかる。
右から左に一閃、その攻撃で盾持ちがよろめき、両手剣の戦士とかち合い、互いにもつれ合う。
「あれが、アーヴェントの家の剣技なのだ……。
「それじゃあ……」
「ああ。
まるで、巨人の
尚も彼は弓使いへ歩いてゆく。
「そこまで!」
焦ることなく
イノセンス・ストーリー 若本幸洋 @wakamoto2008
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