第34話 お茶の間で束の間

――――――夕方、青嵐寮せいらんりょう


「あー腹減ったー!エリザさん、メシ―!」


「あーったく!『メシ―!』なんて大声で言わなくたって、出してあげるんだからそこに座っときな!」


「はーい!今日もたのしみだな―!」


 この前食堂で一緒に昼食をとってからというものの、気づけばいつもこの5人で夕飯を囲んでいる。


 今日は、カツレツプレートらしい。調理場からほのかにただようバターとニンニクの香りに腹を鳴らしながら待っていると、


「そういえば、レオン君は委員会何に選ぶの?」


 セラが組んだ両腕をテーブルに乗せながら、ぐっと身を乗り出してくる。


「え?まさか俺も生徒会みたいなやつに入らなきゃならねーの?」


「委員会は生徒会を上位組織とする、学院の様々な運用を担う組織だからな」


 パウルが淡々と説明する横でティオがメモを取り出して補足する。


「委員会といってもいろいろありますよ、美化委員会、園芸委員会、図書委員会、文化委員会、風紀委員会、放送委員会、新聞委員会、飼育委員会、購買委員会、保健委員会、給食委員会、他にも生徒の中から委員会の発足を必要とされた場合で、その案が否決されなければ、その年限りの委員会が設立されることもあるんです」


「中等部と同じで、図書委員会選ぼうかな」


「へー、ミリアは本好きなのか」


 そう聞くと、ミリアは制服の端をいじりながら、


「本はね、色んな世界を覗くことができるから。だから好きなの」


「ミリアは、『本がお友達なのか?』なんて言われて馬鹿にされた時でも、『本と友達になれないなんて可哀想だね』って返すくらい本が好きだもんね」


「うん」


 確かに思い返せば、ミリアはいつ会っても本を持っている。寮内で会った時も本を持ち歩いていたり、授業の間の空き時間にはカバンから取り出して読みふけっていたり。一緒にいるセラが奔放ほんぽうな性格のせいか、ミリアの周りにいる割に二人とも自分の世界にいるようで、一緒にいるところはよく見るのに、二人とも別々のことをしてることが多い。


「パウル様はどうするんですか?」


「俺は園芸委員会に入ろうと思っている。美化委員会と迷ったんだが、やはり草花を世話できる活動があるのが魅力的でな」


「お前が園芸委員ねぇ……」


「お前が思っているほど華やかなだけな世界でもないからな。力仕事が必要な時があれば、実に丁寧にこまめな世話を必要とするときもある。奥が深い世界だぞ」


「おう、だから俺にはいてなさそうって思ったわ」


「だろうな。セラはどうする?」


「アタシですか?アタシは、風紀委員会に入ろうかなって。院内の風紀を取り締まる番長になるんです!」


 いつになくセラの目がキラキラしている。


「バ、バンチョウだぁ?」


「セラ、もしかして風紀委員会に入りたいのって、オラフ先輩がいるから?」


「だ、だめ?だってかっこいいじゃない、オラフ先輩!」


 さらに興奮しながら語るセラ。


「オラフ先輩って?」


「タケイ流3年のオラフ先輩。中等部からの進級組で、もう中等部の頃から背も高くて、がっしりしてて、レオン君も一目見たらわかるよ。岩というか山というか。そんな感じの人」


 そういいながらティオが両腕を先輩の大きさだろう幅に広げてるのだろうが、どうにも大げさな大きさにしか感じない。ほんとなら、開刻の儀で会った、ゲルトよりもでかそうだぞ。


「へー、なんかタケイ流を人の形にしたら、みたいな人なんだな」


「そう!まさにそんな感じ!」


「あんたら、夕飯できたから取りに来なー!」


 今夜の夕食はカツレツプレート。アツアツのカツレツに粉チーズがかかっていて、オリーブ油の香りとともに粉チーズと衣の香ばしい匂いが立ち上る。カツレツの横にはガーリックライスがよそられていて、調理場から漂ってきた香りの正体だ。


「うまそうだな、さっそく食べようぜ」


「ああ、いただこう、では」


「いただきます」


 カツレツにナイフを入れるとザクッと音を立てて身が切れる。口の中に運び、噛みしめるとそのザクザクとした音とともに肉汁がジワっとあふれる。


「エリザさん!今日もうめえや!」


「そうかい、よく噛んで食べな」


 カツレツに玉ねぎとトマトのソースをかけるとさっぱりとした味になり、さらに食が進む。ゴロゴロと果肉の残った野菜のサクサクとした食感とザクザクとした衣の食感が口の中で入り混じってとても楽しく、その食感を楽しんでる間に肉汁がどんどんあふれて美味しさが増していく。最後にオニオンスープを飲み干すと、すっかりおなか一杯になった。


「あー美味かった、ごちそうさまでしたー!」


 …………委員会活動かぁ。何やるかなぁ。…………寝よ。


 その日はカツレツプレートの余韻よいんに浸りながら、ぐっすりと星空に溶け込むように眠りについた。

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